「メシエ天体カタログ」

ステファン・ジェームズ・オメーラ著 磯部e三 監訳 Newton Press





多くの天文書が各天体の歴史的事実及び最新の天文学からの引用に大部分を割いて

いるが、本書はそれぞれの天体発見時のメシエの言葉や著者が感じた印象を、眼視・

双眼鏡・望遠鏡それぞれから詳しく書いているのが特色です。この本の魅力はメシエの

発見の言葉やスケッチなどがあるかと思いますが、何と言っても著者のの文筆力にある

のではないでしょうか。読者を引き込み、読者自身も自分の目で確かめたいと思わせるよ

うな素晴らしい解説文です。私自身この文献に出会って本当に良かったと思っています。

(K.K)






著者まえがき


2世紀半も前、フランス人のコメットハンター、シャルル・メシエは、星雲状の天体のカタログの編纂

をはじめた。彼はその動機を1801年のフランスの年鑑『Connaissance des Temps』の中で説明して

いる。


「私がこのカタログ作成に取りかかったのは1758年9月12日、その年に見つかった彗星を観測中に、

おうし座の南側の角の上に発見した星雲が原因である。・・・この星雲はその形といい明るさといい、

あまりにも彗星によく似ていたので、私は他にもこのようなものを見つけて、天文学者がこれらの同じ

星雲を、ちょうど輝きはじめた彗星と混同することのないようにしようとした。」


20世紀の天文学者が、これらの印象深く広がった深遠な輝きを示す天体の正体を理解するはるか

以前に、メシエはこの世を去っている。後に判明したことであるが、110個の「メシエ天体」は、天のさ

まざまな種類の宝物を集めたコレクションである。39の銀河、57の星団、9の星雲と、超新星残骸、

天の川の一部、星々の小集団、二重星、重複しているものが一つずつある。表には、知られている

中で最も明るい銀河や、非常にはげしい星の爆発の後に残された幽霊のような残骸、また水素ガス

でできた濃いまゆの中に新しく生まれた星を抱きかかえる、広大な宇宙の雲なども含まれている。


すべてのメシエ天体は小さな望遠鏡で見ることができるし、多くは双眼鏡や肉眼でも見える。とりわけ

街明かりから遠くはなれ、澄んだ暗い星空の下ではなおさらである。メシエカタログのメンバーは「夜

空に浮かぶ天体」のよい標本になっており、またそれらを見つけることで観測技術をみがくこともでき

るので、あらゆる年齢層のアマチュア天文家がそれらを見つけることを楽しめるだあろう。ある意味

で、メシエ天体は新進の天体観測家のための試験場なのである。


(中略)


この本の目的は、観測の初心者と経験者のどちらに対しても、メシエ天体の新鮮な画像を提供する

ことである。第1章は、世界的に有名な彗星発見家、デービッド・レビーが、シャルル・メシエ・・・彼自

身も彗星発見家であった・・・の生涯と、宇宙にあるめずらしい天体についての彼のカタログが一体

どのようにしてできたのかということについて簡単な説明をしている。第2章では、初心者に星空観測

の基礎と、いくつかの重要な言葉・概念を紹介する。具体的には、新しく天文観測をはじめようとして

いる人が星空に順応し、最も明るい部類のメシエ天体を見つけ出すことからはじめる一助となるよう

にと考えて書いた。第3章では、「執筆にあたって」と題して、ここで記されている観測を行う際に用い

た方法や設備を振り返り、また本書の中身に関して付加的な情報を示しておく。


もちろん、本書の核心部分は第4章であり、各々のメシエ天体について詳細に観察している。この

本は「手引書」であるから、私は会話調の文体を主に用いている。私は、まるで私があなたとともに

野原にいるかのように話しかけている。本文の記述に加え、私はそれぞれの天体について座標、

大きさ、明るさ、距離などの重要なデータを示しておいた。西暦2000年分点のファインディングチャ

ートが、巻末のウィル・ティリオンによる最新の広視野星座地図とともに活用できるよう、入念に描

いてある。これらをともに利用すれば、目標天体にすばやく照準を合わせることができるだろう。

また、メシエカタログの原著版を新たにわかりやすく訳してもらい、本書に加えておいた。これは、

しばしば要約だけしか書かれておらず、ときおりまちがいや誤訳を含む傾向にあったこれまでの

訳にとってかわるものである。私はまた、付録Aにメシエカタログの原著版の巻末にある注釈をのせ

ておいた。ここに彼は、他の観測者が報告していて彼自身もさがしてみたが、結局発見できなかった

数多くの天体についての表をのせている。


メシエ天体を見て私が描いたくわしいスケッチが、この本のもう一つの特色である。それぞれのスケ

ッチは、非常に透明度の高い晩を数夜かけ、各々の天体を数時間観測したものにもとづいている。

この描写が詳細なもので、あなたがこれまでに気づかなかったかも知れない(そして写真にも写らな

いかも知れない)、天体の微妙な細部をとらえる手助けとして有用であることがわかるだろう。私は

また、多くの天体について明るさの推定値を最新のものに改訂し、「失われた」メシエ天体のいくつ

かについては推測される原因を提案し、そしてまったく新しい観測例をこの章の至るところに散り

ばめておいた。


第5章では、「シャルル・メシエについて」と題して、メシエと彼のカタログについての私の手短な考え、

あるいは「分析」とでもいったことをのべ、メシエの人物と、彼が見なかったものについて、これまでず

いぶん長いこと考えてきたので、それを書くことが義務であると感じてきた。私はまた、この本はメシ

エカタログに捧げられた本であるにも関わらず、私の大好きな非メシエ天体20個を第6章に書こうと思

っていた。のっていないがためにかえって目立っているこれらの天体を記述するということは、メシエ

カタログへの敬意を表しこれらの天体を観測するのもいいだろう。


付録には「メシエマラソン」についての短い議論と、かみのけ座銀河団からおとめ座銀河団への道

案内、それと推薦書のリストをのせてある。おそらくこの本の最も大きな特徴であり、私が最も伝え

たかったことは、観測に対する私の取り組み方であろう。それは創造的な物の見方と、レンズを通

して見える天体の模様や形に対して想像力をはたらかせて見ること、この2点である。これは、本物

の目だけでなく心の目までも用いて、それらの模様と形を自分にとって見なれたものと結びつけ、

絵や物語までもつくり上げてしまうということを意味している。いずれ知ることになるような事実その

ものを矢つぎばやに浴びせるよりも、むしろ新しい見方をすることでこれらの天体が楽しく見られる

のではないかと考えたのである。とりわけ星団の場合は、本来の形が多様であるために、天上の

ロールシャッハ・テストとも見ることができる。想像力を使うことによって、観測に新しい次元を加え

ることができる・・・それは非常に個人的な楽しみである(結局のところ、これは趣味の一種なのだ)。

チャールズ・ディケンズの『Hard Times』を読んだことのある人なら誰でも、すべてが事実のみに制

限された構成に対して私が抵抗することに理解を示してくれるだろうと思っている。(少年たちに空想

ではなくただの事実を、好奇心ではなく協調心を教えこむことで、ディケンズの冷酷な登場人物、トー

マス・グラッドグリンドは、彼らの探究心を抑圧しようとしたのである。)もしも望遠鏡でメシエ天体の、

この世のものと思えないすばらしさに見入ったことがいまだにないのであれば、まるで絵画や芸術

作品を見て、その意味を自分自身の体験と重ね合わせて考えるように、天体に対しても接すること

を強くおすすめする。


この本が、天体そのものを紹介(または再紹介ということもあり得るだろうが)する本にとどまらず、

観測の腕ももっと高い水準に引き上げ、肉眼で見る限界が上がるように、あなたを刺激する本であっ

てほしいと私は強く願っている。またこの本によって、あなたがこれらの天体を、新しく神秘的な側面

から見ようと探り、よく肥えた創造的な目で見つめるようになり、そして観測者として成長していくこと

を私は願っている。


私は30年に渡ってその呪文でしばられてきたので、メシエ天体の魔力はよくわかっている。最近で

は、妻の目の輝きに同じ魔法の威力を見る。妻が双眼鏡を空に向けて彼女自身の「彗星」にも出

会った時、彼女はいつもそんな目をするように思う。呪文は永遠に解けないのかもしれない。


ステファン・ジェームズ・オメーラ

ハワイ、ボルケーノにて


 


序文 デービッド・H・レビー


年月を経て黄ばんだ、今にもくずれそうな観測記録が、パリ天文台の大ホールにある陳列台に、

ガラスで守られた形で置かれている。その部屋には古い望遠鏡がひしめきあうように置かれ、遠

い過去の星月夜の記憶をささやいているようであった。観測記録の欄には、偉大なる彗星の狩人

シャルル・メシエが、2世紀以上も前の用語を使って、天気、空の状態、観測の進み具合、そして

新しい望遠鏡の図面を書き残していた。その時代とまったく変わっていないのだ、という考えが私

の頭をよぎった。彼の当時の関心事は、今日私の関心事でもあり、彼が望遠鏡でぼんやりとした

ある未知の天体を凝視している時に抱いたにちがいない、「これは果たして彗星だろうか?」とい

う一瞬の緊張は、私自身の彗星さがしの経験からもよくわかる感情であった。しかしメシエの言葉

を読むにつれ、年月の差を感じはじめた。彼はクルニーホテルの塔の上で空を見上げながら、

彗星を未知の星雲や星団と区別していった。その点で、私は彼の後塵を拝していたのだった。


天文学においては思わぬ発見をすることがあるが、シャルル・メシエの物語はその最初の例とい

える。われわれは今日、彗星を発見したことよりも、彗星でない天体のカタログをつくったことで彼

の名前を記憶している。しかしながらメシエは、系統立った探索によって彗星を発見した最初の人

物である。探索を能率的にするために、彼は彗星と見まちがえやすい星雲状の天体のリストを残

し、彼や他の観測者が二度とそれらにだまされることのないようにした。発見者としての功績が認

められている12個の彗星はあまり思い出されることはなくなってしまったが、宇宙に散らばる100を

こえる宝物のカタログは、夜空をかざる最もすぐれた傑作の一部として語りつがれるであろう。


私自身がメシエ天体の追跡を行ったのは、3インチ望遠鏡であるエコーを用いたもので、最初にとら

えようとしたのはアンドロメダ銀河であり、それは1962年8月のことであった。近くのより暗い二つの星

と組み合わせると矢のように見える。近傍の4等星を利用して、私は望遠鏡を視野の2、3個分ゆっく

りずらしていった。突然私の目はぼんやりとした、明るい光の広がりをとらえた。これこそが、私にとっ

て最初のメシエ天体であり、またメシエ天体としてまったくふさわしいものであった。その光は100万年

以上昔にこの銀河を出発したのだと私は考えようとした(今日われわれは、それが200万年以上昔で

あるということを知っている)。そしてこのことが、当時の体験をけっして忘れられないものにしたので

ある。


初心者の天文家にとって、すべてのメシエ天体を見つけだし、観測することほど天体観測のよい練習

になるものはないだろう。それが、夜空に散らばる財宝に通じる一番よい方法である。衝撃的なまでに

美しいオリオン星雲(メシエ42)、繊細でか細い構造のオメガ星雲(メシエ17)、そしてアンドロメダ銀河

(メシエ31)の巨大さは、これら宝石にあらわされる宇宙の壮大さをほのめかしている。


シャルル・メシエならば、この本の著者を知って誇りに思ったことだろう。まちがいなく、スティーブ・オメー

ラは今日世界で最もすばらしい眼視観測家の一人である。1985年、彼はハレー彗星を1911年以来はじ

めて見た人物となった。それは他のどんな人よりも、ちょうど7ヶ月も早い時期であった。(メシエ自身も

1758年のハレー彗星の回帰を真っ先に発見したかったのだが、他の観測家が彼の先をこした。)スティ

ーブのするどい惑星観測は高く評価されているし、彼が描いた宇宙にある天体の複雑なスケッチは、

実にみごとである。スティーブは読者を空の彼方へとみちびき、メシエ天体に一つ一つ出会えるような本

を書いた。これらを見つけることは楽しくもあり挑戦的でもある。この本は、その朝鮮を忘れることのな

い、またおそらく終生つづく発見の旅へと向かわせて行くだろう。



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