「最新天文百科 宇宙・惑星・生命をつなぐサイエンス」
Michael A. SEEDS & Dana E.BACKMAN 著
有本信雄 監訳 丸善 2010年10月発売
2010年10月下旬発売された画期的な天文百科です。この文献が他の天文百科と大きく
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以下商品説明より引用 豊富なカラー画像で、宇宙のしくみから生命の誕生までを学べる構成。
発見に至る経緯や、宇宙の中での人間の位置づけがわかるコラムが充実しています。 宇宙にまつわる科学を知りたい方々が始めに読むのに最適の一冊。 カラー画像とイラストが豊富な天文学の教科書。 空のしくみ、銀河系、恒星といった天文学の基礎的な事柄から、 惑星における生命の誕生まで、宇宙科学のあらゆる分野を一冊で網羅。 ブラックホールや活動銀河などの難しい内容も、 高校生から読みこなせるよう易しく解説されている。 また、全ての章に「なぜわかったの?」「私たちは何なのか?」という コラムが散りばめられていて、どのような証拠をもとに科学的発見に至ったのか、 私たち人間は宇宙の中で歴史的、科学的にどのような位置づけなのかを考え、 宇宙と私たちの大きなつながりに思いをはせることができる構成となっている。 章末の理解度確認のための問題、毎月の星図といった付録も充実。 幾度も改訂を重ねた原書の翻訳で内容も洗練されており 宇宙科学全般を学びたい初心者のために最適の一冊。 訳者まえがき/原著者まえがき/学生のみなさんへ/謝辞 第1部「空」 1:ここという場所/2:空/3:空の周期/4:現代天文学のはじまり/5:光と望遠鏡 第2部「星」 6:原子と星の光/7:太陽/8:恒星/ 9:恒星の誕生と構造/10:恒星の最期/11:中性子星とブラックホール 第3部「」 12:天の川銀河/13:銀河/14:活動銀河と超巨大ブラックホール/15:現代宇宙論 第3部「太陽系」 16:太陽系の起源/17:地球型惑星/18:木星型惑星、冥王星とカイパーベルト/19:隕石、小惑星、彗星 第4部「生命」 20:宇宙における生命 終わりに/付録A: 単位と天文学データ/付録B: 空の観測(星図)/用語集/問題の解答/索引 【著者紹介】 自然科学研究機構 国立天文台 光赤外研究部,総合研究大学院大学 教授
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学生諸君へ マイクとダナから 本書より引用
あなたが天文学講座を選択して本書を使うとは、なんとすばらしいことだろう。あなたは、土星 の氷のリングから怪物的なブラックホールまで、数々の驚くべき現象を知ることになる。筆者 は、あなたのガイド役になれることを誇りに思う。本書を執筆したのは、あなたが天文学の知識 を深める助けとするためだ。それは、夜空の月やいくつかの星を知ることから、宇宙の広がり、 力、またその多様性について深く理解することまでを含む。あなたが出会うのは、メタンが雨と なって降りそそぐ世界であり、内部で原子が壊れるほどに密度が高くなっている星であり、お互 いを引き裂いている衝突銀河であり、膨張がどんどん速くなっている宇宙である。
2つの目標 本書は、次の2つの重要な問いに答えるための参考書である。 ◎私たちは何なのか? ◎どうやって知るのか? 「私たちは何なのか?」という問いには、次の意味がある。私たちは、宇宙やその歴史とどの ように関係しているのか? 私たちをつくっている原子は、宇宙がはじまったビッグバンで誕生 した。いくつかの原子は星の中で焼かれてつくり直され、今は私たちの身体になっている。こ の10億年かそこらの間、これらの原子はどこにいたのか? 天文学は、この物語を語れる唯 一の学問であり、すべての人がこの物語を知るべきだと思う。「なぜわかったの?」という問い には、次の意味がある。科学とはどのようなしくみなのか? 証拠とは何で、どのようにある仮説 が正しいとわかるのか? 例えば、ビッグバンが起きたということは、どうやって知ることができ たのか? 現代社会では、いわゆる専門家が言うことを鵜呑みにせず、注意深く考えてみなけ ればならない。そう、私たちは説明を求めるべきだ。科学者は、「知る」ための特別な方法を使っ ている。それは、証拠にもとづいており、単なる意見や、方針、宣伝活動やピーアールよりもずっ と強力である。また、それは人類が自然を理解するために使う最良の手段である。周りの世界 を完全に理解するためには、科学のしくみを理解しなければならない。本書には、「なぜわかった の?」というコラムが数多く設けられている。このコラムでは、科学者が宇宙を理解するために、 科学の方法をどうやって使っているのかを紹介している。
心の準備をお忘れなく 天文学が刺激的なのは、新しい発見が毎日のようにあるからである。天文学者は、新しい驚き に対して心の準備をしている。本書では、新しい画像や新しい発見、またあなたを人類の知の フロンティアへといざなう新しい洞察などをなるべく多く取り入れるよう努力した。ぜひあなたも 天文学者の驚きを共有してほしい。へき地の山頂や宇宙にある巨大な望遠鏡は、私たちに単な る娯楽を超えるすばらしい刺激を日々届けてくれる。それは、私たちは何なのかをより詳しく教え てくれるのだ。本書を読み進んでいくと、本の中身が、記憶するべき事がらのリストではないこと に気づくだろう。そんなリストだったら、天文学でさえつまらなくなってしまう。本書は、科学者がど のように証拠と理論を使い、自然のしくみについての論理的な説明をつくり出すのかをわかりや すく紹介するように構成されている。次のページに列記してある本書の特徴は、あなたが、天文学 を証拠と理論の積み重ねとして理解できるように考案された。科学を論理的な説明の積み重ねと 考えることができれば、宇宙を理解する鍵を手に入れたようなものだ。
謙遜しないように 教師として、求めることは単純である。私たちの宇宙の中での立ち位置を伝えたいのだ。それは 単なる空間の中での位置ではなく、ひも解かれた物理的な宇宙の歴史上での立ち位置である。 宇宙の中で、私たちのいる場所や私たちが何なのかを伝えたいし、また、科学者はどのようにし て知るのかも伝えたい。本書を読み終える頃、宇宙がとてつもなく大きいことを私たちは理解して いるだろう。それだけでなく、宇宙は数少ない法則によって記述できること、また、私たち人間は その法則を発見するすべてを持っていることを知るだろう。その方法とは、科学と呼ばれている。 この美しい宇宙の中にいる私たちの役割を心から実感するには、天文学で明らかになった事実を 学ぶだけでは足りない。それ以上に、私たちは何なのか、また、どのようにして知るのかを理解し なければならない。本書のすべてのページにその理念を反映させたつもりである。
マイク・シーズ ダナ・バックマン
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(本書より引用) |
本書の特徴 本書より引用
◎ 「私たちは何なのか?」では、その章で述べた天文学的内容と私たち人間との関係を 記述した。例えば、元素の起源や太陽系探査の今後、天文学的な尺度で見た文明社会の 意味などである。このコラムは、すべての章末にある。
◎ 「なぜわかったの?」は、科学のしくみについて解説したコラムである。例えば、仮説と 理論の違いや、統計的な証拠の使い方の解説、科学的モデルのつくり方を紹介している。
◎ 「イラストと写真で学ぼう」では、とくに図解が必要なトピックを扱っている。豊富な図は、 自分自身で内容を掘り下げて理解する助けになるだろう。科学者が自然界の秘密を解き明 かしたときに感じる達成感を、ぜひ共有してほしい。図の説明文にある色つきの文字や数字 は、図が表している概念への目印になっている。
◎ 「道しるべ」は各章の最初のページにあり、本書の構成を見通すための案内となっている。 ここには、その章と前後の章との関係、また各章で明らかにされる疑問が短くまとめられている。
◎ 「科学的な議論」は、ところどころの節の終わりにある。その節の内容を自分なりにまとめ、 復習するのに役立つような問題提起がなされている。最初に掲げた問題と、その後に続く短い 答えの中に、科学者がいかに観測や証拠、理論、自然法則を駆使して論証を行い、結論にた どりつくのかを記述した。また、これに続いて関連した別の問題を挙げてある。この問題を使っ て、ぜひ自分自身で論説を組み立てるようにしてほしい。
◎ 「天体のプロフィール」では、太陽系の天体の特徴を直接比較するための特徴をまとめた。 これはまさしく、惑星科学者が天体を理解するための方法である。惑星を個々に独立の天体と 考えるのではなく、際立った違いはあるが、似通った特徴や共通の歴史を持つ兄弟と考えるの である。
◎ 「復習問題」は、内容の復習と、理解度のチェックに役立つ。
◎ 「議論のための問題」は、本文に書かれている以上の科学的な問題を取りあげ、批判的に、 または創造力を使って考えることを促す。
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訳者まえがき 天空の彼方へ 本書より引用
夏の浜辺に腰を下ろして、星を見上げた経験は誰でもあるだろう。暗い土地ならば、夜空に 天の川が輝いているのが見える。無数の星ぼしと、その間をさまよう火星や木星、あるいは、 宵の明星。天文学は、空に見えるあの光は何だろうという、人々の単純な好奇心からはじまっ た。振り返ってみれば、私は小学生のときに小さな望遠鏡で月を見て、その表面がでこぼこ する様子や、地球の自転のためにまるい視界の中を流れてゆくことに強く惹かれた。それか ら、ボール紙の望遠鏡をつくったりした。ちゃちな望遠鏡であったが、月のクレーターや土星 の輪が見えた。もっとも、その望遠鏡は夜露ですぐに壊れてしまったけれど、中学に入ってか らは、天文学者になろうと思い、一生懸命に勉強した。大学では星の進化に興味を持ち、以来 一貫して、恒星の進化論に立脚した、銀河の起源と進化の解明に取り組んでいる。だから、私 が天文学者になろうとしたきっかけは、昔の人々が天に抱いた好奇心と同じものだった。あれ からずっと、あの空に光るものは何か、それを知ろうとしてきた。
ところが、どうもそうではないらしい。実は私もそれに気づいていた。そのことを本書は教えてく れる。私たちが天文学を学ぶのは、私たちが何かという問いに答えるためなのだ。ためしに、 天文学者にこう尋ねてみるとよい。「天文学は社会のために役に立ちますか?」 きっと、その 天文学者はこう答えるに違いない。「もちろんです。天文学は私たちが何かを明らかにする学問 なのですから。」 そもそも、この問いは、フランスのポスト印象派の画家、ポール・ゴーギャンが 貧困と絶望の中で仕上げた名画・・・・『われわれはどこから来たのか われわれは何者か わ れわれはどこへ行くのか』・・・・から来ている。この絵はゴーギャンが遺書の代わりに描いたもの とも言われるが、ゴーギャンの問いに答えること、それこそが天文学が目指す究極の目標といえ る。言うまでもなく、この問いは哲学の問題でもある。しかしながら、哲学と天文学の違いは、天文 学はこの問題に実証的に答えようとするところにある。すなわち、この宇宙はどのようになってい るか、という問いを通して答えようとするのである。望遠鏡をつくり、衛星を打ち上げ、装置を工夫 し、観測を重ねる。そのようにして、未知の惑星を発見し、宇宙の彼方にある銀河を捉え、まった く新しい天体現象を記録する。そして、物理学の法則を使って、宇宙の新しい姿を解き明かす。 それをもとに私たちはどこから来て、どこへ行くのか、私たちは何なのかを考えるのである。
天文学者が、ゴーギャンのこの問いかけを意識するようになったのは、いったい、いつ頃からだっ たろう。私はそれが1995年ではなかったかと思う。この年は、スイスのジュネーブ天文台のミシェル・ マイヨールとディディエル・クエロッツにより、ぺガスス座51番星という恒星に、木星とよく似た惑星の 存在がはじめて確認された年である。これは太陽系の外ではじめて発見された惑星であった。それ 以来、370個以上もの系外惑星が発見されている。おそらく、太陽の近くにある恒星の10〜20個に 一つには惑星系があるのだろう。惑星があるのは太陽だけではない、という事実は、天文学を職業 とする者の心をはげしく揺さぶる。どこかの星でも、同じように、この空を見上げ、あの光は何だろう と思う誰かがいる。やがては、宇宙というものを知り、その起源と未来を知って震撼する。私たちの 身体が恒星の中でつくられた元素でできていると、その誰もが知るようになり、やがては、私たちは 何かという問いが生まれる。彼らは、地球から見える宇宙と、まったく同じ宇宙をみている。だから、 私たちも彼らも、同じような天文学を学び、同じ問いに答えようとする。この銀河系にはそういう彼ら が無数にいるだろう。そのうえ、宇宙には銀河系と同じような銀河が、2000億も存在するのだ。そう 考えると、私たちが何かという問いの持つ意味は果てしなく深い。私たちは、どうしてこの宇宙に生ま れ、どうやってこの地球にたどり着き、これから、どこへ行くのか、それを考える手引きとなるのが 天文学であり、天文学者の仕事である。
本書は“Horizons: Exploring the Universe(第11版)”、Michael A. SEEDS & Dana E.BACKMAN 著 による天文学の入門書である。本書には、メタンの雨が降る衛星や、原子すら潰れる超高密度の 恒星、衝突する銀河、あるいは日ごとスピードを上げながら膨張している宇宙など、もっとも新しい 宇宙の姿が描かれている。本書を読みながら、新しい知識を得ることは楽しい。けれども、ページを めくるたびに、私たちは何であるか、科学はいかにして新しい知識を獲得したか、この二つの問い が執拗に繰り返される。
本書は、夜空、恒星、銀河と宇宙、太陽系、そして、生命という五つの部から構成されている。生命 の章では地球外の生命を扱う。宇宙がどのようになっているかを知りたいだけならば、この章は必要 ないかもしれない。けれども、ゴーギャンの問いに答えることが天文学の果たすべき役割である。だ から、本書でここまで書いてきた内容のすべては、実はこの最後の章のための準備にすぎないと 著者はあえて言う。本書は難しいといわれている天文学をとっつきやすいものにしたいという工夫に 満ちている。豊富な天体写真とイラストはすべてカラーである。実際、写真とイラストの間に本文が はさまっているという印象すらある。手に取るとずしりとくる本書の重みは天文学という学問の重み である。私は本書を、大学の先生はもちろんのこと、年輩の方々にもぜひとも読んでいただきたいと 願う。夜空の向こう、天空の彼方はどうなっていて、何があるのだろうという、少年少女のときの純粋 な疑問の答えがここにはある。
本書の翻訳は天文学の四人の若手研究者にお願いした。中村理さん、高木俊暢さん、松浦美香子 さん、そして、小野寺仁人さん、いずれも、第一線の研究者である。大変忙しい研究生活の合間を 縫って、翻訳作業を行なっていただいた。翻訳に取りかかって、ほぼ一年で訳出を終えたのである から、これがいかに過酷なスケジュールであったかわかっていただけると思う。みな、東京大学と 国立天文台の私の研究室から巣立っていった研究者である。これからも、それぞれの研究分野で 活躍することを願っている。 (以下略)
2010年8月 くまぜみの喧しい、湘南の海辺にて 有本信雄
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