「アイヌ民族シリーズ 増補版 サルウンクル物語」
川上勇治著 すずさわ書店 より引用
本書より引用
本書 あとがき 川上勇治 より引用
昭和45年(1970)から書き始めた私のウパシクマ(言い伝え)集、『サルウンクル物語』が 出版されたのは、昭和51年でした。文中に書いてありますように、父母、祖父母が亡くなって から幾年月、私にとっては、忘れることの出来ない長い苦闘の連続でした。私たち兄弟を、 無事に一人前に養育してくれた老夫婦の祖父母に対して、孫のわたしがせめてもの供養に なれば、と書き綴ったのが、このウパシクマ集であります。
しかし、考えてみると、私の書いたものが、一冊の本として活字になるということは、想像も しておりませんでした。幸いにして、最初に書いた祖父のウパシクマを、北海道の文化誌に とり上げていただき、次に東京から柳田国男の研究誌に載せていただき、次に平取町史の 一頁に掲載され、さらには姫田忠義氏の御好意で、この祖父のウパシクマと他、私の文集の 一部とを合わせて、サルウンクル物語というタイトルをつけて、近畿日本ツーリストが出してい る「あるく、みる、きく」という雑誌に載せていただきました。このような経過をたどり、多くの人 達の温かい御支援によりまして、私の幼稚な文章が世に出る運びになったのであります。
この本は、著者自身が言うのはおかしいのですが、わりあい好評でした。どこかで病む人が あれば見舞いに行き、誰かが死んだという知らせがあれば、どんなに自分の仕事がいそが しくとも、五里も六里もの道を歩いて、アスッタサ(とむらい)に行き、火事になって住む家を 失った人には、コタン全員総出で、新しい家を作って贈り、食べ物、着る物を持ち寄って助け 合い、和人にだまされても、うたがうことを知らず、人を裏切らず、神々を敬い、ウウェペケレ や、ウパシクマで、子供達に人の道を教え、自然と対話しながら、本当に貧しいながらも、人 間らしい生活を続けてきたのが、沙流川すじの各コタンに住んでいた、エカシ(爺さん)、フチ (婆さん)達でした。
現在は、文化も進み、私達ウタリ(同胞)の生活もいちじるしく向上して参りましたが、それと 同時に、人の心は乱れ、自分さえよければ他人はどうなってもかまわない、つまり義理人情 うすい人が多くなってきたような気がします。そのような中で、私の書いたこの本が、昔のア イヌの精神文化の一端を知るよすがになれば、本当に幸せだなあと思います。
2003年3月24日 沙流郡平取町荷負ペナコリ(旧名)にて
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目次
はじめに
第一部 コタンの妖刀 コタンの火事 谷地のおばけ あるラメトックルの思い出 モチャシ婆さん 蝮へのチャランケ アリマキナ伯父の災難 洪水の晩に 菊三おとの放浪 チロロ川の大蛇 造林人夫の遭難 メノコの怨念 コウタロー石の由来
第二部 祖父のウパシクマの思い出 祖母のウパシクマ アイヌ二等兵 馬と私 私の少年時代 ペナコリの変遷
第三部 アイヌの飢餓を救った山の神 和人の若者を救った村長 流行病の人々を救ったマタタビの神 鬼婆々に育てられた娘 石狩コタンへ養子に行った弟 ケソラッカムイに好かれた若者
サルウンクル物語に寄せて 姫田忠義 あとがき
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2012年5月24日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。 |
2012年5月21日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。 |