「賢治の見た星空」
藤井旭著 作品社 より引用
宮沢賢治の多くの作品に登場する星に由来する記述、特に「銀河鉄道の夜」では (K.K)
|
本書 「はじめに」 より抜粋引用
獅子の星座に散る火の雨の 消えてあとない天のがはら 打つも果てるもひとつのいのち
賢治の代表詩集『春と修羅』におさめられている詩「原体剣舞連」の一節である。 “獅子の星座に散る火の雨”とは、およそ33年ごとにくりかえされる“しし座流星雨” のことで、賢治5歳の1901年(明治34年)に活発な出現があり、賢治が亡くなっ た直後の1933年(昭和8年)には大出現が期待されながら出現のなかった“流星 雨”である。だから、賢治はあこがれ続けながらこの“流星雨”を一度も目にするこ とはできなかったことになる。悠久な天体の運行にくらべ、それを語る賢治の一生 があまりに短くはかなかったからである。そのしし座流星雨が、賢治没後およそ2 めぐり目の2001年11月19日の未明、一夜に5000個以上もの流星が文字通 り、“散る火の雨”となって降りそそぐのが全国で見られた。そのようすを実際に目 撃され、宇宙の不思議と神秘さを実体験、感動された方も多いことであろう。
私も白河天体観測所で、8人の星の仲間たちと、賢治があこがれ、またわれわれも あこがれ続けた宇宙のビッグショーに身ぶるいするほどの感動を覚えながら見入っ た。そして桔梗色に明けゆく空に、なおも飛び続ける流れ星たちを目に、「ああ、賢治 さんにこんな光景を見せてあげたかったなあ」とタメ息まじりに一人がいい、もう一人 が「こんなようすを目にしたら賢治はいったいぜんたいどんな作品を生みだしたろう か」とつぶやくのを耳にした。
本書のねらいも、まさにこの星の仲間たちのつぶやきにある。星好きだった賢治が見 あげた星空のことはもちろんだが、“賢治に見せたかった星空”のこと、さらには“賢治 があこがれた星空”についての紹介だからである。そしてそれは、また、賢治ファンの 方々にも、“賢治気分でぜひ見あげてほしい”との願いをこめてのものである。
賢治研究の専門家でもなんでもない私に、賢治の精神世界や作品論についてお話し できるはずもないが、少なくとも賢治なみにイーハトーブの星空に接してきたつもりなの で、美しい色彩にいろどられた賢治ワールドのうち、星の世界の物語についてなら、読 者の方々を誘いお話できると思ったからである。33年ごとにくりかえされるしし座流星 雨のひとめぐりほどの短い生涯のうち、あれほど多彩な星物語を語り聞かせてくれた 賢治のすばらしさを、夜空一面に輝く星たちの光につつまれながら味わえることがど んなに幸せなことか、本書から少しでも感じとっていただければ、ガイド役の私にとっ てこれほど嬉しいことはない。
|
目次 はじめに
T 星めぐりの歌 双子の星 雁の童子(すばる) シグナルとシグナレス イギリス海岸 よだかの星 水仙月の四日 烏の北斗七星 ポランの広場 インドラの網 土神と狐 夏は“銀河鉄道の夜”の星空の季節
U 銀河鉄道を行く 午后の授業 アルビレオ観測所 天気輪の柱 赤い目玉のさそり タイタニック号の夜 銀河鉄道の終着駅 プレシオスの鎖 銀河鉄道の一番列車 銀河鉄道の線路 冬と銀河ステーション 秋の目じるしはカシオペーアの三目星
V 岩手山の夜 岩手山 柳沢峠の夜 まどろみの異空間 銀河が流れ、星が輝く 「東岩手火山」再現登山 賢治のメモ帳 あの房の下のあたりに 賢治の星座 夜明けのアースシャイン 冬は美しいオライオンやすばるの輝き
W 賢治の見た星空 賢治の星座早見 雨ニモマケズ 宵の明星 賢治の見た木星と土星 密教風の誘惑 種山ヶ原の夜 弦月の下 月夜の帰り道 薤露青 北いっぱいの星ぞらに 賢治の見た月食 温く含んだ南の風が 原体剣舞連の夜 いなびかりする星の夜 春は「星めぐりの歌」を口ずさみつつ
X 賢治のあこがれた星空 オリオン星座がのぼるまで 銀河鉄道の全線 ケンタウル祭の夜 南十字とニセ十字 石炭袋 マジェランの星雲 星になった賢治
|
(映し出されるまで時間がかかる場合があります)