内容紹介より引用
今年(2012年)は,天文現象の「当たり年」ともいわれています.皆既月食,金環食など
目を引く天体ショーは記憶にあたらしいところで,天文に関心をもった人も増えたのでは
ないかと思います.そんな,天文に関心をもった人が最初に知っておくべき事柄とはなん
でしょう.その答えは本書にあります.アメリカ・カナダで定評のある実践的な天体観測
ガイドであり,必要不可欠な事柄がまとまっています.野外観測の実践的な手引きとして
だけでなく,観測機器の選択についても,大いに役立つ助言が多数です.
天体観測をはじめたい! でもどこから手を付けたらいいの? そう思ったとき、最初に手に
したいのが本書だ。なぜなら、宇宙の構造、夜空の見え方、星座や星の探し方、天体望
遠鏡の選び方、天体写真の撮影方法などがこれ一冊でわかるからだ。専門用語を使わず、
きわめて易しくをモットーに、著者の経験に基づいて初歩から丁寧に解説することにより、
天体観測の実用的なガイドとしてだけでなく、宇宙のことを知る読み物としても優れた内容
となっている。1983年の初版刊行以来、アメリカ、カナダを中心にアマチュア天文家から選
ばれ続けている本書を手にして、夜空を眺めてほしい。
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本書の構成
1.宇宙発見
2.宇宙の11段はしご
3.裏庭天文学
4.四季の星々(各季節の全天星図つき)
5.天体観測機具
6.宇宙の深淵を探る(深宇宙星図つき)
7.惑星について
8.月と太陽
9.日食と月食
10.彗星、流星。オーロラ
11.夜空の写真撮影
12.南半球の星座(南半球の四季の全天星図つき)
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本書 序文
ティモシー・フェリス カリフォルニア大学バークリー校名誉教授 より引用
新しい千年紀に、われわれの地球を取り巻く広大な宇宙に関心をもつ人々が増え続けている。
それも書物から知識を得るだけでなく、夜に屋外に出て自ら空を見上げるような人々が、である。
星見は報われることが大きい活動である。私は、労を惜しまずに自分なりの星の見方を学んで
後悔した人に、まだ会ったことがない。そしてほかの知的追求活動と同様に、研究対象について
学ぶほど、得られる満足もまた大きくなるのだ。
星見の友に、適切な本をもつことが重要なのはこのためである。こうした本はあなたの目を開か
せ、情報を知らせ、読書を続けさせる。よき人間の友も知識豊富で信頼できるが、良い本であれ
ばあなたと星の間に割り込むことでなく、簡潔に本質を伝えてくれる。こうした本は、口径200mm
の望遠鏡で木星の衛星の食を観察する場合でも、双眼鏡ごしに天の川かを端から端まで辿る
場合でも、単に星座と星の名前を覚えようとしている場合でも、堅牢で使いやすくなければなら
ない。
経験豊富な天体観測者は大抵、野外での使用と室内での精査という二重の試練に耐えたお気に
入りの本を2、3冊もっているものだ。それらの本はそうして古い友となる・・・ぼろぼろになり、夜露
に濡れ、数え切れないほどの昼夜を共にして忠誠を博した古つわものである。私にとってのそうし
た本を挙げれば、まず、H.A.レイの『あたらしい星のみかた』(The Stars:A New Way to see Them)
だ。星座の紹介には少し変っているが、時代を超えて魅力的な本である。次にアラン・サンディッジ
の『ハッブル銀河アトラス』(Hubble Atlas of Galaxies)、これはクリストファー・コロンブスが、もっと
よい書き手であったならば・・・そしてカメラを携行していたならば・・出していたかもしれない本であ
る。そしてロバート・バーナム・ジュニアの『星百科事典』(地人書館)だ。篤志事業であり、バーナム
の存命当時は正当な評価を受けていなかったが、彼を追憶の中に長く留めるだろう。
テレンス・ディキンソンの『ナイトウォッチ』は、そのような本の1冊になること請け合いである。初版
刊行から何年も、初心者から熟練者まで広くアマチュア天文学者たちのコミュニティーで信頼され
愛され続けてきた。その理由は簡単に推察できる。ディキンソン自身熟練した観測者であり、頭脳
明晰な書き手であるからである。彼には今の時期に何が見えるかがわかっているし、その観測
対象が一番良く見える方法も知っている。そして豊富な知識を、自ら学んだだけでなく、天文学を
多くの人と分かち合ってきた人特有の、控えめながら気さくな声で、惜しみなく提供してくれている。
彼の、天文学に対する深い審美的な眼識は、本書収録の豊富な図版に反映されている。彼は、
釣り人がなじんだナイフを毎日よく研いで手入れするように、この「ナイトウォッチ」の改訂と更新を
続けている。一観測者にとって本書が、釣り人のナイフ同様に使いやすい道具であり続けるように
と願いながら。「ナイトウォッチ」は、観測におあつらえむきの夜のように、雲ひとつなく大気の乱れ
もない。ぜひこの本を持って、外に出て見てほしい。
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本書 監訳者あとがき より引用
地球は、その自転にともない、1日が明確にふたつの時間帯に分かれている。太陽が昇って
いる昼と、太陽が沈み、暗闇に包まれる夜とである。一般的には昼は活動時間帯、夜は寝る
時間帯であるが、知的生命として進化した人類は、その夜こそが宇宙を垣間見ることのできる、
いわば「窓」としての時間帯であることを悟った。見上げる夜空は宇宙そのものであり、万人に
等しく開かれている。これは当然のことながら、読者の皆さんにとっても例外ではない。夜空を
眺めたり、宇宙に触れたりするには、なんら特別な行動は必要ない。日が沈み、夜の帳が降り
たら、空を見上げるだけでよいのだ。そういう意味で、夜は宇宙を眺めることのできる魅力にあ
ふれた時間帯なのである。
さらにいえば地球は、太陽の周りを1年かけて公転している。いわば、地球は太陽の周りを1年
で1周する壮大なメリーゴーラウンドのようなものである。この公転にともない、太陽と反対側、
つまり夜に見える星空も移り変わっていく。季節とともに、異なる星座たちを眺めることができる。
空が澄んでさえいれば、東京や大阪などの大都市でも、1等星をはじめ、明るい星たちは意外に
よく見える。季節ごとの星空のランドマークである夏や冬の大三角を眺めることもなんとかできる。
もし、都会を離れて、満天の星空が望めるようなところに行くことがあるなら、太古の昔からわれ
われの祖先が眺めてきた無数の星たちが相も変らずに輝いているのを見ることができる。そんな
星たちが、季節ごとに移り変わる様子をメリーゴーラウンドに乗ったわれわれは、楽しむことがで
きるのである。
また、地球には月という巨大な衛星が存在する。約1ヶ月かけて月は地球の周りを公転している。
この公転にともなって、地球から眺めたときの月面上の昼と夜の比率が異なるために、三日月か
ら上弦、満月、そして下弦へと満ち欠けをする。夜空で大きさがわかる天体が夜ごとに形を変え
ていくという見事なショーを見せてくれているのである。日ごとに形を変える月は、大都会の明るい
夜空でも、その存在感は大きい。
夜は、そんな宇宙を垣間見る素敵な時間帯である。宇宙を楽しむには、まずは特殊な機材も必要
はない。ただ晴れた夜に空を見上げればいい。しかし、こうして眺めているうちに、わき起こってく
る知的好奇心を押さえられないこともある。あの星の名前はなんだろう。あの明るい星はいったい
なんだろう。星空が季節ごとに移り変わるのはどうしてだろう。月や惑星をもっとよく眺めるには
どうしたらいいだろう。こうして、次第にその興味の方向は、ふつうの星空だけでなく、しばしば起き
る日食や月食といった天文現象や、天体望遠鏡を使って観察する肉眼では見えない天体へ向い
ていくに違いない。あるいは天体写真を撮ってみたいという衝動に駆られるかもしれない。
そんな時には、やはりガイドブックが必要となる。本書「ナイトウォッチ」は、そんな好奇心旺盛な
天文ファンの欲求を満たすスタンダードなガイドブックといってよいだろう。最初に宇宙の全体像が
11段階のスケールで示された後、庭やベランダから、肉眼で眺める星空の観察から始めて、季節
の星空、星座の解説、そして天体望遠鏡や双眼鏡を用いた深宇宙の天体の観察、惑星の観察、
月と太陽、日食や月食といった天文現象、さらに彗星、流星群の紹介を経て、天体写真の撮影
方法へと至る構成は、まさに天文ファンが初心者からベテランへと辿っていく道筋に一致している。
1983年に初版が出てから四半世紀を経ているのだが、天体望遠鏡や写真撮影の技術の進歩に
ともなって内容は適切に更新されてきており、本書は2006年に刊行された第4版の翻訳である。
北米大陸特有のオーロラなどの解説もあって、日本でそのまま適用できない部分もあるが、本書
を読みとおすことで宇宙を観察するために必要な知識は、ひととおり得られるようになっている。
本書をじっくりとお読みいただき、自分の住んでいる場所の環境や、ライフスタイルに合わせ、まず
は今宵の星空から観察を始めてほしい。そして、実際に星空を眺める時に、あるいは天体望遠鏡
を購入する時の予備知識を得るために、本書をぜひ活用してみてほしい。本書によって星座探し
の面白さや、宇宙に触れる趣味の奥深さを少しでも感じて、その魅力を知っていただければ幸い
である。
夜という時間は、地球に住むすべての人に等しく開かれている。夜の帳が降りたとき、宇宙という
窓があなたにも開かれることだろう。
2012年6月 渡部潤一
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