「天空の果実―宇宙の進化を探る」
H・リーブス著 野本憲一&野本陽代 訳 岩波現代選書
本書 訳者あとがき より引用 私たち人間は、この宇宙のなかでどのようにして生まれてきたのだろうか。そこには いかなる必然性があり、どんな偶然が働いていたのだろうか。そして、宇宙の未来 は。ビッグ・バンとして誕生した宇宙が、150億年かけて私たち人類を生み出すまで にたどる壮大なドラマを、やさしいわかりやすい言葉で、しかも科学的に書いたのが この本である。
宇宙は膨張し、進化している。ビッグ・バンの熱いスープのなかで飛び回る素粒子か ら生命が生まれるまでには、長い物質の歴史があった。宇宙の膨張によって温度が 下がっていくにつれて、物質の間に働く力が、核力、電磁気力、重力とつぎつぎに目ざ め、さまざまな構造が発生していく。いろいろな組織の形成は、スムースに進行する かと思えば、ふりだしにもどってしまうこともある。秩序だった進化もあれば、偶然が 大きくものをいうこともある。微妙なバランスが破れる瞬間、ハラハラ、ドキドキするよ うな決定的瞬間を通りぬけて、銀河が、星が、惑星が、大洋が、生物が、そして人間 が生まれていく。
この本の著者H・リーブスは、上手な「たとえ」を巧みに織りまぜて、「山がネズミを生 んだ」過程、すなわち、宇宙のなかにいろいろなレベルの組織や秩序、多様性が誕生 していく様子をわかりやすく述べている。彼はイル・ドゥソンの海辺で、潮が引き岩が 次第にその姿を現わしていくありさまに、宇宙の熱の潮が次第に引き、物質の間に働 くさまざまな力によって組織化が進む様子を見た。「たとえ」は、もちろん、科学的説明 にはならないが、読む人の直感的な把握には大きな助けとなる。
類書が多数あるなかで、この本の大きな特徴の一つは、科学的予備知識の多少にか かわらず、それぞれのレベルにあわせて理解できることだろう。科学的知識をしながら、 なおかつ読み物としてのおもしろさを保つのは至難のわざと思われるが、それをリーブス はみごとにやりとげている。このように無理なく一息に読み通すことができるということ は、統一的な宇宙観を得るうえで非常に大事なことではないだろうか。もう一つの特徴 は、生命や人間社会をも含めたこの世の中のすべてのものが、バラバラと混沌とした ものになってしまわずに、多種多様な構造や秩序を持ったものとして形成されているの はそもそもなぜなのか、そこでは偶然と必然がどのようにからみあって作用しているの か、という現代科学に共通する大きなテーマを、はっきり意識して書いていることであ る。彼は、宇宙という舞台でそれがいかになされてきたかを、流れるように描き出すこ とに成功した。
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2012年3月21日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。 |
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