「大草原の小さな旅」

ロウラ・インガルス・ワイルダーと開拓の西部

スーザン・小山著 三一書房

全国学校図書館推薦図書

第二章 史本・「大草原の小さな家」 

”象徴とされたインディアン” より






日本では現在に至るまで何回もテレビで再放送された「大草原の小さな家」。

日本と大平原の共通分母を求め続けた著者が辿り着いた先が、インガルス家

の物語だった。本書は彼らインガルス家が生きた時代の時代背景や当時の

インディアンの視点を交差させながら、私たち日本人には距離的にも心理的

にも遠くかけ離れたこの物語を生き生きと甦らせることに成功している。原作

を読んだ方にとっては勿論のこと、テレビでしか見たことがない人にとっても、

この誠実に生きたインガルス家の物語をより深く、親近感をもって理解し直す

ことが出来るに違いない著作である。

(K.K)


 








本書 第四章より引用


「”小さな家”の物語は遠い昔の話です。こんにち私たちの生活も学校も、

なにもかもすっかり変ってしまいました。私は卵をフォークでかき混ぜたり、

ケロシン・ランプを掃除したりしたものですが、そんな時代から多くの歳月が

経ちました。なにもかも便利になって、学習も楽になりました。でも本当の

ことがらは少しも変っていません。いつも正直で誠実であることは一番大切

なことであり、むやみにものを欲しがらず、いまあるもののなかから最善の

効果を生み出すよう努めること、素朴な生活のなかに喜びを見いだすこと、

そしてものごとがうまくいかなくても決してくじけることなく勇気を持ち続ける

こと、そのようなことがらが大切であることは昔も今も変りはないのです。」

彼女にはロウズという一人娘がいた。だがジャーナリストとして成功した当

代の飛んでいる女だった娘には子供がなかった。だからロウラには血の

つながる孫はいない。だがそのかわりに、彼女にはあの愛すべき物語を

通じ、時間と空間を超えて心をつなげる何百、何千万もの孫がいる。その

孫たちにとって、彼女は絶え間なく西部開拓の物語を語り掛ける、永遠の

お婆ちゃんなのである。消費、消費の物質主義に明け暮れる今日の世界

に、あの素朴な自然主義、そしてアメリカを偉大な国として真の独立精神

を体現して生きたロウラの物語は、大人にも子供にも通ずる貴重な人生の

教訓を、いまも私達に呼びかけているのである。 


 
 


本書より引用


さて開拓者にとってインディアンは愛憎の的だった。それは自分たち

とは人種、文化、社会、言語ともにまったくことなる人々であり、その

ひとびとの住む未知の世界に踏み込んだヨーロッパ白人種にとって、

未知の人々に対する感情は賛嘆、共鳴よりも脅威と恐怖の的となっ

た。白人の到来はどんなに美しいことをいっても、本質は侵入と侵略

だった。だから、他人の土地を盗みにやって来た人間の心は、自ら

の行為を正当化するためには、どうしても先住民族を共通の敵とし、

誰の目にも明らかな物質文明の優勢に根ざした優越意識と、異質の

ものに対する恐怖を武器とした、憎悪で心を武装するしかなかった。

しかしながら北米に進出したヨーロッパ人にとって、インディアンは

また知的、感傷的好奇心を喚起される、ロマンに満ちた存在でもあ

った。これも真実である。未知との遭遇に対する曖昧さ、複雑な心

理錯綜は、今日にいたるも白人アメリカ人が解決の出来ないでいる

国民的課題である。その辺の自己分析を難しくしている要因が、白人

自身の心のなかにあるインディアン憎悪の反対の、美化なのである。


そしてインディアンに対する数々の美化現象は文学のなかでもっと

も顕著で、十九世紀後半に大平原に開拓者として進出した人々は、

東部ではとうの昔に征服、駆逐されてしまった原住民の伝承民話と

ともに育って来た。J・F・クーパーの「最後のモヒカン」や、ホウソン

やソーロウが集めた民話がその代表である。チャールスは、それら

を読んでいたに違いない。北米先住民族の存在は、潜在的憎悪を

はらみながら、大西部の冒険とロマンを象徴する存在となった。そし

て弱小民族は、強大勢力の進出にともなって、辺境へ、西へと押し

やられて行き、征服されて行く西部辺境の象徴としての不幸な役割

は、白人の西進運動が進行する限り、終始強制された役目だった。


弱いものを美化したのは、侵略の罪悪感を薄める、白人側のうめ

合わせ行為だったのかも知れない。植民地時代からインディアン

について、数々の作家が数々のことを描き、それがホウソンの「ヒ

アワサ」、クーパーの「最後のモヒカン」、そして英国に連れて行か

れてロンドンで死んだ実在の女性「ポカホンタス」の物語になった。

だがこれらの物語の主人公は白人にとって決して英雄ではなく、

征服されてゆくものの象徴として、白人の民間伝説に組み込まれ

ていったものである。滅ぼされてゆくものは、滅ぼされて行かなけ

れば美しくもなんともない。滅ぼされるものとして描かれることによ

って、初めて白人に受け入れられる美しい存在に高めてもらえる

のだ。大変な矛盾である。だがその矛盾は、インディアンのもので

はなく白人のものである。他人の土地に、その土地を横領するた

めにやって来た事実は変らない。そして土地という貴重な資源を

めぐる攻防戦は、当然にして征服戦となって、力ずくの解決をみた。

そして自らの国土に生きて来た人々の土地と自由を制限し、誰も望

まない貧弱な地に設定した保留地に追いやることによって征服は

完成し、過疎の地に追いやってその存在を忘れて来たために、い

ま、インディアンを隣人として考えるのは、大部分の米国民にとっ

て、余計難しくなってしまったのである。


 


本書より引用


先住民族は、たしかに私たち現代社会の人間が、とうの昔に忘れて

しまったたいせつな心を持っている。そしてその精神性こそが、現代と

いう巨大な産業主義消費社会の、絶え間ない搾取と攻撃の的になっ

ている。だから、うわっつらな観光主義にのってそういう「精神」旅行と

やらをするのは、ひとつの搾取であることを、十分意識する必要があ

る。もちろん旅行が悪いといっているのではない。観光主義が悪いの

ではない。そのとき、そういうものに参加する自分の行動が、なにを

意味しているかを、そしてそれを受け入れる相手の心の中に、なにが

進行しているかを、よくよく自覚していて欲しいと私はいっているので

ある。先住民族の心とはなんなのか、私たち消費主義現代社会の

住人が忘れてしまったものを、そして先住民族が、その巨大な攻撃の

なかで守ろうとしているものがなんであるかを、その旅の結果として

考えてほしいといっているのである。それを理解したとき、私たちは、

自分たちの失ったものがなんであるかを知るはずである。この狂乱

怒涛の消費主義が、いかにわれらの「真の母」を、大地を、汚辱して

いるものであるかを知るであろう。三一書房から出していただいた

べつの本、A・C・ロス博士の”我らみな同胞”は、インディアン自身

が綴った、インディアンの心の原点の一端を示している。この「大草

原の小さな旅」は、主題をインディアンではなく、白人の側において

みた。あの時代、インディアンを保留地に追い込み、その文化の抹

殺をはかったものがなんであったかを見て行くために、また、北米大

陸先住民の直面した問題を、大所高所から見て行くために、絶対に

必要と考えたためである。


 


目次

はじめに


第一章 大草原の小さな家をめぐって

ワンダーラスト

インガルス家の軌跡

ロッキーに春来れば

「小さな家」に秘められた作為と乾いた草原地帯

大空間と若者たち

史跡・大草原の小さな家


第二章 史本・『大草原の小さな家』

丸太小屋とソッド・ハウス

象徴されたインディアン

オーセッジ族

条約

カウボーイ


第三章 開拓者の大平原

辺境の入植者たち

a 「ホーム・ステッド法」と入植者

b デ・スメット

c 母さんと19世紀の「真の女性信仰」

d 数十万のキャロライン

鉄道

鉄道と先住民族

鉄道と入植者


第四章 ミズーリへ

大平原の昨日、今日

a いなご

b 凍った家畜

c 旱魃

家路


第五章 辺境の終り

辺境の終りの意味するもの

無法者・ドールトン一家物語

a 無法者

b インディアン領と「首吊り判事」

c 死の小路

強盗対市民・ドールトン防衛博物館


あとがき


 


スーザン小山の本場アメリカンインディアンホームページ

コロラド州在住の著作家、アメリカ・インディアン研究家、スーザン小山さんが新たにホーム

ページを創りました。スーザン小山さんは多くのインディアンに関する書籍を出版し日本に紹介

しておられる方で、「アメリカ・インディアン 死闘の歴史」並びに「大草原の小さな旅」は全国

学校図書館推薦図書に選ばれた文献で、その他にも「インディアン・カントリー 心の紀行」

「白人の国、インディアンの国土」があります。特に「アメリカ・インディアン 死闘の歴史」は、

平原インディアン(ダコタ・シャイアン・アラバホ・クロウ族)の終焉の物語を描いた力作です。

また、西欧でベストセラーになり、来日し講演したこともあるインディアンのロス博士の著作

「我らみな同胞」をも翻訳されております。このスーザン小山さんの総合ホームページの中の

「アメリカインディアンの歴史と文化のページ」では、興味深い記事が掲載されており、「環境

破壊ページ」では、絶滅動物が写真と共に詳しく紹介されています。私自身スーザン小山さん

から多くのことを教えていただいたり、何度となく励ましを受けてきました。このホームページ

はスーザン小山さんのそのような飾ることのない、温かい人柄を感じさせてくれます。


   
  








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