「ビジュアルタイムライン アメリカ・インディアンの歴史」

グレッグ・オブライエン著 阿部珠理 訳 東洋書林 より引用













本書より引用



ヨーロッパ文化との接触により迫害され、衰退したとされるアメリカ・インディアンの

歴史は、単なる加害者・被害者の構図では捉えられない。彼らが伝染病や戦いで大

きく傷つき、ヨーロッパの市場経済に巻き込まれていったことは確かだが、それをよ

り容易にする諸部族間の敵対関係や先住民社会自体の分断があったことも事実な

のである。



大きな変動の中を生き続けながら、社会を維持・発展させるために、現在も自らを

柔軟に変化させているアメリカ・インディアン



本書は、彼らの社会がヨーロッパ文化とのコンタクトによって変容してゆく過程を努め

て公正にすくいあげ、総合的な歴史の描写を試みる。


 



阿部珠理(あべ・じゅり) 立教大学社会学部教授


福岡市生まれ。UCLA大学院助手、香蘭女子短期大学助教授を経て、現在

立教大学社会学部教授。アメリカ先住民研究。著書に「アメリカ先住民・民族

再生にむけて」(角川書店)、「アメリカ先住民の精神世界」(日本放送出版協

会)、「みつめあう日本とアメリカ」(編者・南雲堂)、「マイノリティは創造する」

(共著・せりか書房)、「大地の声 アメリカ先住民の知恵のことば」(大修館書

店)、「ともいきの思想 自然と生きるアメリカ先住民の聖なる言葉」(小学館

新書)、訳書にアメリカ先住民の口承文学をまとめた「セブン・アローズ」(全

3巻 地湧社)、名著「ブラック・エルクは語る」、「文化が衝突するとき」(南雲

堂)、「ビジュアルタイムライン アメリカ・インディアンの歴史」(東洋書林)、論

文に「アメリカ・インディアン・アイデンティティの文化構造」など多数
2011年

にはNHKカルチャーラジオ、歴史再発見で「アメリカ先住民から学ぶ・その

歴史と思想」が放送された。


 
 


本書 訳者あとがき 阿部珠理 より抜粋引用 2010年11月



本書は、グレッグ・オブライエン著、The Timeline of Native Americans: The Ultimate Guide to North

America's Indigenous People の全訳である。アメリカ・インディアンの歴史に関する書籍は、これまで

日本になかったわけではないが、約300点の視覚資料を含み、年表も完備して事典的な詳細さを具え

た本書は、原題のUltimate(究極の)が示すように、研究者のみならず、多くの読者の広範な関心に

充分応えるだろう。



本書の特徴は、多角的に先住民を捉える総合的な視点と、その記述内容のバランスの良さにあるだ

ろう。アメリカ・インディアンに関する歴史書は、時として先住民を一方的な被害者として描いたり、中立

を目指すあまりヨーロッパの植民地主義の加害性を充分に明らかにしない態度をとったりするものも

あった。本書は、ヨーロッパ社会とのコンタクトがもたらした先住民社会および文化の変容の要因と過

程を、できうる限り公正に記述するという姿勢に貫かれている。



例えば、インディアン社会の衰退を考える際、その背景として伝染病や白人との戦い、ヨーロッパの

市場経済に巻き込まれる過程で激化する部族間抗争、諸部族間の伝統的な敵対関係を利用して

植民勢力を拡大しようとするヨーロッパ諸国と、彼らへの先住民部族の自主的な協力などがあげら

れる。ヨーロッパ植民勢力の明白な先住民劣等視と彼らの際限ない強奪の一方で、それを容易に

した先住民社会の分断と分裂も明らかになる。そしてそれらが、地域によって異なる先住民部族社

会に共通する歴史であることが納得される。



生存を左右するような大きな社会変動に、先住民は歴史的に生き残ったが、彼らが社会を維持、

発展させてゆくためには、今後も賢明で柔軟な変化への適応が重要であるだろう。それが著者の

インディアン社会観である。



邦題にあるように、本書は「インディアン」という呼称を使用している。歴史的記述においては常套だ

が、2004年に首都ワシントンD.Cに開館し、先住民が主体的に運営する「国立アメリカ・インディアン

博物館」や、先住民系新聞大手最大の発行部数を誇る『インディアン・カントリー・トゥデイ』にも明ら

かなように、先住民学者のみならず、多くの先住民自身がその呼称を好む事実がある。ポリティカ

ル・コレクトネスの主張から重視されている「ネイティヴ・アメリカン」という呼称との併用は、今後も

続いてゆくだろう。



本書は2000年代の初頭でその記述を終えている。20世紀のエネルギー開発やカジノの登場は本

文で言及されているが、今世紀のインディアン社会の最大の課題である社会経済開発の問題に

触れて、あとがきに替えたい。



貧困と疾病は、インディアン社会の深刻な問題であり続けている。最近の統計では、高等教育の

程度こそヒスパニックを若干上回りはしたが、インディアンは依然として、合衆国でもっとも貧しく、

不健康な民族集団であり続けている。この状態を打開するため諸部族が取り組んでいるのが経

済開発であり、もっとも即効性のあるものとして、カジノ経営が注目されている。半自治地区の

保留地に、賭博禁止の州法は及ばないが、連邦の補助予算の削減と部族の経済的自立を促す

目的で、レーガン政権期に推進されたのがインディアン・カジノである。現在その数は全米で300

を超え、例えば西半球最大のフォックスウッド・カジノは、消滅寸前のペクォート族を、先住民の

中でもっとも裕福な部族にした。このようにカジノの現金収入で、目に見えて財政状態を向上させ

る部族がある一方で、遠隔地にある保留地のカジノは充分な客足を確保できず、倒産する例も

出てきた。



インディアン・カジノは部族間の経済格差を助長しているが、それのみに経済開発を頼るのは、

本書でも明らかな連邦インディアン政策の原則なき転換、変遷に鑑みても危険である。各部族

は、エネルギー資源開発や土地、森林資源の管理と有効活用、伝統文化関連事業(ラコタ族の

バッファロー牧場やチッペワ族のワイルドライス栽培)を含めた開発ポートフォリオの策定と、そ

の企画運営をする人材を養成することが急務である。インディアン再組織法で設置された部族

議会がそれらを推進するためには、その機能を高めなければならないが、部族メンバー内の不

協和音がしばしばそれを阻害する。課題は山積しているが、500年に渡るこれまでの過酷な負の

経験を生き抜いてきたという自信をバネに、彼らが拓く21世紀のインディアン社会に期待したい。

アメリカ・インディアン社会の再生は、近代の植民地主義とエスノセントリズムの犠牲となって弱

者に転落した民族の、復活の証左にほかならないのだから。








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