「大地の声 アメリカ先住民の知恵のことば」

阿部珠理 著 大修館書店 より引用







同じ著者による「 ともいきの思想 自然と生きるアメリカ先住民の聖なる言葉」

を先に読んだため本書の「大地の声 名句 名言篇」には重複する部分がある

が、発行は本書が先である。「大地の声 名句 名言篇」は多くの名句名言を紹

介するというよりも、著者ががインディアンと触れ合った長い時間の中で、著者の

心に浮かび上がってきた言葉を紹介するもので、ただ単に言葉の素晴らしさでは

なく、それを基盤に生きている現在のインディアンの姿そのものを描き出してい

る興味深いものである。「民話・伝承篇」、「詩歌篇」ではインディアン各部族に伝

わる民話や歌を、著者独自の視点で選び、それをそのままの形で掲載し紹介し

たものである。

(K.K)


 









阿部珠理(あべ・じゅり) 立教大学社会学部教授


福岡市生まれ。UCLA大学院助手、香蘭女子短期大学助教授を経て、現在

立教大学社会学部教授。アメリカ先住民研究。著書に「アメリカ先住民・民族

再生にむけて」(角川書店)、「アメリカ先住民の精神世界」(日本放送出版協

会)、「みつめあう日本とアメリカ」(編者・南雲堂)、「マイノリティは創造する」

(共著・せりか書房)、「大地の声 アメリカ先住民の知恵のことば」(大修館書

店)、「ともいきの思想 自然と生きるアメリカ先住民の聖なる言葉」(小学館

新書)、訳書にアメリカ先住民の口承文学をまとめた「セブン・アローズ」(全

3巻 地湧社)、名著「ブラック・エルクは語る」、「文化が衝突するとき」(南雲

堂)、「ビジュアルタイムライン アメリカ・インディアンの歴史」(東洋書林)、論

文に「アメリカ・インディアン・アイデンティティの文化構造」など多数
2011年

にはNHKカルチャーラジオ、歴史再発見で「アメリカ先住民から学ぶ・その

歴史と思想」が放送された。


 
 


「声」の共同体 あとがきに代えて (本書より引用)


(前略)だが、19世紀の半ばから後半にかけて、合衆国に完全に制圧された後は、

強力な同化政策が彼らの伝統を分断していった。子どもたちを白人教育の枠組み

に置くことが強要され、寄宿学校に送られた子どもたちは、母語の使用を厳しく禁じ

られた。歌うことも、祈ることも、物語ることも禁じられた。言語が固有の文化と伝統

を繋げていくもっとも強力なものであることを、征服者たちはよく知っていた。「口承」

の民からその「語り」を奪うことによって、共同体をばらばらにしようとしたのである。

同化政策は「功」を奏して、かつて300を超えた先住民族言語は、現在半数の150

言語しか実際の話者を持たない。さらに1世紀のうちに、20にまで減少するという予

測すらある。150言語中、若者の話者がいるのは35言語に過ぎないからだ。1965

年以降活発化した先住民復権運動もあって、多くの部族で伝統文化の掘り起こしや

言語維持のための試みがなされているが、私が通う保留地でも、部族間の話者は一

割を超えない。英語が日常となった今、かつての口承伝統は完全に失われただろう

か。いや、決してそうではない。私は彼らの生活の随所で「物語る」伝統が生きてい

ることを、強く感じてきた。子どもたちはお話に耳を澄まし、大人が三人集まれば、お

話が始まる。それは一昨日の妻との喧嘩の話かも知れないが、いきさつから結末ま

でが、不思議と「物語」になってしまうのだ。2003年度のサンダンス映画祭の受賞

作「スモーク・シグナルズ」は、初の先住民による先住民の映画だが、その中に私の

実感を鮮やかに裏打ちするシーンがあった。コードレーン保留地で、パンクな二人の

少女が、二人の少年を車に乗せる場面である。


少女「乗せてあげてもいいけど、何くれる? 私たちインディアンじゃない。物々交換

でいこうよ」

少年「物語でどう?」


そうして少年は、保留地のある人物にまつわる過去の出来事を物語にして語るのだ。

この500年の間に、アメリカ先住民は実に多くを失ったが、「声」は失わなかった。声が

響いている限り、どんなに貧しかろうと彼らの共同体は死なないだろう。


 


目次


第一部 大地の声 名句・名言編

「今日は死ぬのにいい日だ」 死生観

「老いた者が語るときは静かに耳を傾けよ」 老人の地位

「一人の子を育てるのは村がかりの仕事である」 子育て

「彼らはもはや狼でも犬でもない」 自立の重要性

「女が地にひれ伏すまでは国が征服されたことにはならない」 女性の地位

「人はそれぞれの歌を持つ」 個性

「贈り物は、与え尽くされて初めて本当の贈り物になる」 ものの所有

「愛によって得られるものをなぜ暴力によって奪おうとするのか」 先住民の贈り物

「私に繋がるすべてのもの」 血縁も種族も超えた繋がり

「夢は人より賢い」 夢の啓示

「空気をどうやって売るのか?」 自然観

「真実を語るのに多くの言葉はいらない」 沈黙と雄弁

「客はつねに疲れ、凍え、空腹なのだと思ってもてなせ」 もてなしの精神

「太鼓がくれば、(踊りは始まる)」 時間感覚

「すべては円を巡る摂理」 聖なる輪


第2部 すべての生きものの物語 民話・伝承編

跳ぶネズミの冒険 シャイアン

火を盗んだウサギの話 クリーク

コヨーテ、星と踊る シャイアン

モグラはなぜ地下で暮らしているか チェロキー

ハイ・ホースの恋 スー

夫の約束 テワ

イクトミが間違って妻と寝た話 ラコタ・スー

スポッティッド・イーグルとブラック・クロー ラコタ・スー

空を持ち上げる話 スノーミッシュ

偉大な創造主が美しい国を作った シャイアン

ブラック・ヒルズの犬レース ラコタ・スー

白いバッファローの乙女 ラコタ・スー


第3部 風の歌 詩歌編

年老いた女の歌 イヌイット

カリブー狩りの歌 イヌイット

恋の歌 チッペワ

年老いた男が妻を歌った歌 イヌイット

娘を持った男の歌 イヌイット

鳥と結婚した男 マンダン

離婚の歌 ツムシアン

夜明けの歌 メスカレロ・アパッチ

饗宴の歌 ピマ

空のはた織り機の歌 テワ

フクロウの女の歌 パパゴ

夜の祈り ナヴァホ

歌 スー

雷の歌 ナヴァホ

嵐の歌 ズニ

カチナの歌 ズニ

魔法の言葉 イヌイット

成熟の歌 チリカワ・アパッチ

蛍の歌 オジブワ

岩の歌 オマハ

春の歌 オジブワ

今日は俺の日だ スー

力を願う祈り パウニー

戦歌 スー

追悼の歌 スー

死の歌 シャイアン

癒しの歌 スー

ペヨーテのヴィジョン カイオワ

ゴースト・ダンスの歌 パイユート


「声」の共同体 あとがきに代えて

「付録」

インディアン史 略年表

州名になったインディアン語とその意味

インディアン部族の分布地図

現在のインディアン保留地

参考文献








アメリカ・インディアン(アメリカ先住民)に関する文献

アメリカ・インディアン(アメリカ先住民)

天空の果実

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