「秋の星座博物館」

山田卓 著 地人書館


 





「春の星座博物館」 山田卓 著 地人書館

「夏の星座博物館」 山田卓 著 地人書館

「冬の星座博物館」 山田卓 著 地人書館




本書 まえがき より引用

星ぶろの楽しみ



旅先で思いがけなくみごとな星空に出合うことがある。ちかごろの名古屋の空は東京と

かわりなく、4等星ですら姿をみせたがらない。日ごろ惨めな空の下で暮らす私にとって、

それはめったにないチャンスであり、大いなる旅の楽しみのひとつである。



まるで星ぶろにでもつかったように、見も心も投げだして、あふれるほどの星の湯船の

感触を味わうのだが、星をたたえる歯のうくような美辞麗句のすべてが、ためらいもなく

使え、そして同時にすべての言葉が無意味でむなしくなるときである。



しばらくは、星の名前も星や宇宙に関するいくつかの知識もまったく無用だ。ただ、ワァ

ーッとひろがった数えきれない星々と、その空間と時間のなかに自分がいることを実感

するのだ。



“天文学を勉強した人は、とてつもなくでかい宇宙を知っているから、地上の小さなくだらな

いもめごとなど、まるで気にならないだろう”と考える人がある。もしそうなら、天文学者の

すべてが、心豊かなゆうゆう自適の人生が送れるはずなのだが、実はそれは当たってい

ない。



星や宇宙は、知ることと共に実感することが大切だからだろう。星ぶろにつかるのは、その

意味で悪くない趣向だと思う。できるだけのんびり、頭に手ぬぐいをのせて鼻歌が歌えるほ

ど、自然に浸りきった自分を楽しむことが理想である。



しかし、人間はぜいたくな動物だ。みごとな星ぶろも、しばらく浸かっているとなんとなく落ち

つかなく、焦燥感とでもいうのかじっとしていられなくなる。このめったにないチャンスを、ただ

漫然と眺めるにはいかにも惜しい。もっとなんらかの方法で自分のものにしたい、このすばら

しさを自分の手に残してだれかに伝えたい・・・・などが、混然一体となってせきたてるからだ

ろう。



現代人の悲しき習性というべきか、物質文明がつくった現代病といわれれば、まさにそうかも

しれない。ともあれ、症状が現われたら簡単な星図をつかって知っているいくつかの星と星座

をさがしてみるといい。あるいは、双眼鏡かカメラを星に向けるといい。霊験あらかた、たちど

ころに症状は霧散してしまう。だから私は旅の荷物に小さな双眼鏡と星図を、あるいはカメラと

三脚を加えるように心がけている。



ところで、例年世の中の星空への関心は、七夕の季節に急上昇して、8月の半ばを過ぎると

早々としぼんでしまう。海水浴じゃあるまいし、“星は夏”と誰がきめつけたのだろう。四季を通

じて、夏にみる星空だけがすばらしいわけではない。四季折々それぞれ趣があっていいし、

水蒸気を多く含んでい少し寝ぼけた夏の空より、秋から冬にかけての透明な星空のほうが

“星浴”するにはふさわしい。



台風一過、雲ひとつなく晴れあがった夜の星ぶろはまた格別である。あわよくば星ぶろを・・・・

という旅は、できるだけ新月に近い日を選ぶといい。




 
 


本書 あとがき より引用

昼の星見



台風一過、ひんやりと冷たい空気がこころよい秋晴れの空はすばらしい。黒味を帯びた青空は、

透明でどこまでも深く、目をこらすと星がいくつか見えそうな気配すら感じさせる。



こういう空に出会ったら、「昼間の星見」としゃれてみたい。小道具として双眼鏡と観測年表があれ

ばいい。目標は金星。年表で太陽の位置(赤経・赤緯)と金星の位置(赤経・赤緯)を調べて、金星

が太陽から東西どちらに何度くらい離れているかを知る。経度差の時分を角度に換算するとき、

赤緯によってちがうので「夏の星座博物館」の33ページを参考に概算してほしい。



位置の見当がついたら、そのあたりとおぼしき付近を、実視界6°〜8°の双眼鏡でさぐりあてる

わけだ。まちがっても太陽を直接見ないように、さぐる時にかならず太陽側から外側にむけて動か

すようにしたい。多少の熟練を要するが、あなたに少々の意気込みと根気があれば大丈夫みつか

るだろう。



視野の中にチカッと光る金星を見つけた時、おもわず声がでるほど、不思議な感激が味わえること

はうけあいである。ついでに、そおっと双眼鏡をはずして肉眼でさがしてみよう。青空の中に小さな

光点が見つかったら「バンザイッ」。そして、これほどの空で星座めぐりが楽しめる、すばらしい秋の

空に「乾杯!」。






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