「冬の星座博物館」

山田卓 著 地人書館


 





「春の星座博物館」 山田卓 著 地人書館

「夏の星座博物館」 山田卓 著 地人書館

「秋の星座博物館」 山田卓 著 地人書館




本書 まえがき より引用

雪どけをまつ夏の星座たち



3月といっても、台湾坊主がときならぬ大雪を降らせることもある。山はまだ冬そのもの。吹雪に

おそわれることだってある。私にとって3月は、まだまだスキーシーズンの半ばといったところで

ある。春分を過ぎて、やっとすこしだけ春山らしい表情をみせはじめるが、そんな頃、よいの冬の

星座もすこしだけ西に傾きはじめるのだ。



春のナイタースキーは楽しい。星をあおぎながらリフトにゆられる時、がらにもなくロマンティックな

夢をみせられてしまう。ナイター照明を浴びたまばゆいばかりの雪のジュータンが、いやでもその

ムードをかきたてるのだ。ゲレンデを天の川にみたてるなら、色とりどりのスキーヤーは、天の川

付近にむらがる輝星たちということになる。



ロッジのかげにはいって、視野から照明を追いだすと、目がなれるにしたがって、冬の天の川と、

それにまつわりつくように、ひしめきあう冬の星座たちが見えてくる。雪のゲレンデは、そのまま

天の川になるのだ。



ベテルギウスの赤、リゲル、シリウス、、カストル、プロキオンの青や白、カペラの黄、ポルックス、

アルデバランのオレンジといったベテランスキーヤーたちの華やかなヤッケがゲレンデに舞う。

ナイター照明が消える午後9時ごろ、夜空のスキーヤーたちも西の地平線にむかう。東からのぼ

ったまばらでさみしい春の星座たちにおしだされてしまうのだ。東の地平線の下で、夏の星座たち

が雪どけを待っている。



下界ではもう水着のファッションショーがはじまった。春の雨が雪を消すのに、まだこれからたっぷ

り2ヶ月はかかるというのに・・・・。




 
 

本書 あとがき より引用

旅にでるオリオン



4月のよい、春の星座たちが、冬の星座にとってかわる。冬のよい空をとりしきったオリオン一家

は、親分オリオンを中心に、おおいぬ、こいぬ、おうし、ぎょしゃ、ふたご、うさぎなど、子分ともども

西の地平線にむかって旅立つのだ。



ところで、跡目をつぐ春の星座たちには、特に群をぬく親分がなく、めいめい勝手にちらばって

まとまりがない。輝星に乏しいうえに、春がすみが星のまたたきに催眠術をかけてしまうからだ

ろう。相続争いの気配すらまるで感じられない。



旅装束(たびしょうぞく)のオリオン一家を西に見おくってしまうと、春宵ののんびりムードが夜空を

おおう。春の星座のトップをきって、春一番、かに座が空高く舞いあがる。双眼鏡でかに座のプレ

セペ星団を楽しんだのが、つい先日のように思えるのに、それはもう一年も前のことなのだ。



プレセペの顔は一年前とすこしもかわっていない。旅に出たオリオンも、来年また確実に冬の夜空

に帰ってくるだろう。





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