「一万年の旅路」

ネイティブ・アメリカンの口承史

ポーラ・アンダーウッド著 星川淳訳 翔泳社より






1810年、イロコイ連邦オナイダ族に属する一人の若い女性ツィリコマー

(明るい春)は重大な決心をすることになる。アメリカ合衆国建国まもない

この時期に伝統的な先住民社会は先祖伝来の土地を追われ、キリスト教

の改宗を迫られていた。イロコイ連邦でも宗教改革者ハンサムレイクが

伝統的信仰とキリスト教の折衷を説き、部族全員の協議により古来の

伝統を捨てることに決まる。それは一族の来歴を記録する伝承者もろと

も消し去ることを意味していた。決定をきいたツィリコマーは協議の席

を立つと祭壇に歩み寄り、口承史にかかわるワンパム・ベルト(記録帯)

と聖包を取り上げ、正しい来歴を守るため逃亡する。それから五世代後

の1993年、ツィリコマーの子孫が受け継いだ驚くべき口承史の内容が

本書である。彼女の祖先ははるか一万年前にベーリング陸橋を越え、

アジアから北米に渡った様子と共に、多くの困難のなかにも未来の子孫

のために今この状況の中で何を学ばなければならないのかを探求して

きた姿が描かれている。本書は10万年以上に渡る一族の歩いた道の

中に、多くの叡智と戒めが刻まれた貴重なものである。この分厚い言葉

は文字に依らず口承によって気が遠くなるような世代を生き抜いてきた

のである。この口承史の継承者である著者は、ツィリコマーが逃亡した

イロコイ連邦の国会にあたるオノンダーガ族のロングハウスと六部族の

知人たちに寄贈し、批判があれば謙虚に受け入れることを言明してい

るが、イロコイ連邦からはクレームは出ておらず、個人的な理解者は

増えているとのことである。誠に本書は偉大な学びの民の長い歴史の

物語であり、過去を未来に結びつける希望の書であり、「子どもたちの

子どもたちの子どもたちのため」是非読んでいただきたい。

(K.K)


同じ著者による、真の「学び」とは何かを問いかけた「知恵の三つ編み」

アメリカ独立の際に大きな影響力を与えたイロコイ連邦の民主制、並びに

その生い立ちについて詳しく書かれた「小さな国の大いなる知恵」という

文献も是非参照してくださればと思います。また星野道夫氏と親交があっ

たリチャード・ネルソンの「内なる島 ワタリガラスの贈りもの」という文献

は訳者が翻訳されたものです。


 








本書より引用


そこで、一族は新しい歌を歌った。互いに昨日のことを語り聞かせ、ときおり

明日に思いを馳せながら、今日のありがたみを味わう歌。一人ひとりが、ともに

暮らすことの価値を、あらゆる声に耳を傾ける話し合いの価値を認めるまで。

一族はこれに満足し、全員の胸に新しく、いっそう強い目的意識が生まれた。

「いざ、守っていこう」彼らは語り合う。「われらが道の本質だけでなく、寄り集う

ことの本質も、互いに話し合うことの本質も、われらが学んだように空中の文様

をなぞることの本質も。いざ、このすべてを守っていこう。子供たちの子供たち

の子供たちが二度とふたたび、見知らぬ新しい土地をなんの助けもなしに歩か

なくてもすむように。われらは学んだ」「あらゆる声に耳を傾けてとことん話し合

えば、知恵にたどり着けることを。そして、それぞれの心に浮かんだ文様は、

試練を通じて新しく織り直すことができること。さらに、これら二本の強い足を

支えにすれば、一族は一見生きのびられそうもない状況を生きのびることが

できることを。だから、いざ」 彼らは最後に言う。


 
 


本書より引用


「この道の本質をはっきり心にとどめよう。子供たちの子供たちの子供たちが、

われらの歩み方からも語り方からもそれを見逃すことのないように。われらが、

これほど苦心して互いから学び合ったものを、彼らにも学んでもらおうではない

か」 これを聞いていたのは<知恵の娘>。そしてものごとの機敏さにさとい者

たちは、彼女のほほ笑みを見て、その意味を理解した。その日からというもの、

子供たちの子供たちの子供たちが、これらの大いなる教訓を学び損ねたため

しはない。学び方に遅い速いのちがいはあっても、この方法はしっかりと守ら

れてきた。たったいま、あなたが私から学んだように。あなたが私からこれらの

言葉を聞いているように、あなたの子供たちの子供たちにも、あなたからこれら

の言葉を聞かせるがよい。大地が揺らぎ、空から石が降り、海が山と出会って

も。これまで見たこともない、そうしたできごとが起こっても。なお、子供たちの

子供たちの子供たちは、火より明るい炎をたずさえ、いかなる状況より確かな

理解をたずさえていることだろう。そんなときすら、彼らは一つの生から別な生

に歩み渡る術を知っているはず。彼らの中には、ありえないような変化を乗り

越える、長い綱の橋をかける力が潜んでいるはずだ。過去を未来に結びつ

けるもの。一族の存続を保証するもの。 さあれかし。


 


目次


一つめの主な語り


どれだけそこに住んだか だれも覚えていないほど長いした土地

石の雨が降った日

大いなる乾きと一族がいかにして新しい道を学んだか

一族がいかにして草地を越え 〈海辺の渡り〉を見つけたか

一族がいかにして多くの知恵の道を学んだか

木のほとり


二つめの主な語り


渡り

森なす山々

さらなる旅

南への道

二人の逞しい兄弟

大地の上のあまたの輪

西への旅

水を渡る民

古の歌

はじまりの歌

人間とは何か

黒い鳥の子どもたち

われらはいかにして老いを重んじるようになったか

彼らは丸い家に住む

大海との再会

培う女

東への旅 悲しい別れ


山の語り三つ


先を見通す男 予見と理解のちがい

鷲のように飛ぶ 歩けない男の話

守られた盆地


草の大海


草の大海

黒い大海

カボチャの姉妹

カボチャの花

二つの道

小さな実

大壁のように押し寄せる海

カボチャの花の子どもたち

海越え


はじめの民の子 学びへの多くの道


学びへの多くの道


われらが美しいと名づける川


われらが美しいと名づける川

赤リスと灰色リスの物語

灰色リスの物語

赤リスの物語

太陽の民


東の大海


東の大海

石の丘の民

理解

探索


美しい湖


美しい湖

多くの学び

異なる道


補遺

解説

概念の発展

プロセスの発展 自治

原注

訳者あとがき





2012年6月22日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。





代表者を如何にして選ぶか(インディアン・イロコイ連邦のピースメーカーを感じながら)。
写真はFB友達の伊藤研人さんから紹介してもらったDVD「世界を癒す13人のおばあちゃん 
これからの7世代と、さらに続くこどもたちへ」から引用。



選挙が近づくと大声で「お願いします、あと一歩、あと一歩です」なんて聞くと、どこかの漫才でも

ないがリハビリしているのかと言いたくなってしまう。



僕が描く理想的な代表の選び方は、水洗式である。チェ・ゲバラは虐げられている者への共感が

根底にあったが、維新だの改革だの叫んでいる人たちは、ただ単に自分の、民衆の頭の中を

真っ白にして古いものを一瞬にして洗い流したいだけだろう。



あれ、字が間違っていた、推薦式である。



住民が地域社会に対して行ってきたその人の活動なり言動を見て、この人だったらこの地域に

住む人、そして広く日本に住む人のために良い方向に導いてくれる、彼(彼女)に代表者になる

意志はなくともそんな人を推薦する。



そして各地(村単位)で推薦された人たちが集まって、町まり市なり県・国の代表者を推薦していく。



インディアンの社会においてどのようにして族長を選ぶかに関しては詳しくないが、ある部族は

女性だけの投票で族長(男性)を選ぶところがあり、推薦式なのだろう。



勿論、インディアンの部族という小さな集団での選び方が、そのまま日本にあてはまるかは疑問も

多いだろうが、一つの視点になるのではないだろうか。



話は飛ぶが、アメリカ合衆国には治外法権が適用されFBI(米連邦捜査局)さえ踏み込めない

準独立国・色恋連邦がある。



あ、また間違った。イロコイ連邦である。



今から1000年ほど前に結成されたこのイロコイ連邦の民主的な制度に通じていたフランクリン

(独立宣言起草委員)は、イロコイ連邦組織を手本にオルバニー連合案(1754年)を作り、この

多くの要素が現在の合衆国憲法にも取り入れられている。



このイロコイ連邦を作ったとされるピースメーカーの物語を少し紹介したいが、彼の物語はロング

フェローの叙事詩「ハイアワサの歌」でも有名であり、如何に代表者を選ぶかということも示唆され

ていると思う。



ピースメーカーの物語、「ハイアワサの歌」はロングフェローの脚色が多すぎるため違う文献から

引用したい。



☆☆☆☆



そこで、ピースメーカーは語りかけた。人間はだれでも<グッドマインド>をもっていて、それを使え

ば人間どうしも、また地球上の生きとし生けるものとも平和に共存できるし、争いも暴力ではなく話し

合いで解決できる。



だから、血で血を洗う殺し合いはもうやめよう、と。



彼はまた、九つの氏族を定めて乱婚を避けること、そして相続は母系で行うことを教えた。



家や土地や財産は母から娘へ引き継がれ、子どもはすべて母親の氏族に属するのである。



各氏族は男性のリーダーとして族長を、女性のリーダーとして族母を選び出し、族長と族母には

それぞれ補佐役として男女一人ずつの信仰の守り手(Faith Keeper)がつく。



族長は族母によって選ばれ、族長にふさわしくない言動があれば、族母はそれを辞めさせること

もできる。



氏族メンバーの総意で選ばれる族母は、つねに人びとの意思を汲み上げる大きな責任を負う。



族母(クランマザー)の由来は次のように伝えられている。



ピースメーカーがオンタリオ湖の南岸に着いて平和行脚をはじめたばかりのころ、セネカ族の

土地で峠の宿を営む女将に出会った。



そこは東西を結ぶ街道の要所で、彼女は道ゆく戦士たちを心づくしの食事でもてなすのが

自慢だった。



しかし乱世のこと、それは争いの火に油を注ぐ役目も果たし、また彼女自身、ときどき食事に

毒を盛っては人殺しに手を染めることがあったという。



そこへ通りかかったピースメーカーの話を聞くと、女将はたちまち平和の道にめざめ、すっか

り改心して最初の支持者となる。



ピースメーカーは彼女を「生まれ出ずる国の母」を意味するジゴンサセと名づけて讃えた。

初代クランマザーの誕生である。



「小さな国の大いなる知恵」ポーラ・アンダーウッド著より引用。



☆☆☆☆




(K.K)



 


2012年3月25日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。

画像省略

「NHK DVD ハーバード白熱教室 正義」



NHKの番組でサンデル教授の授業が印象深かったので、レンタルで借りて見た。教授の例え話は

勿論のこと、学生達の言わんとしていることを的確に掴み、対話を通して議論を深めていく技術。

現代に甦ったソクラテスなのではないかと感心してしまった。



また教授の質問に自分の意見を瞬時に見い出していくハーバード大学生の優秀さと同時に、その

道徳性の高さにも驚き、サンデル教授の「対話しながら善の一致を探る」姿勢は感動的すらあった。



ただこれらの対話の中で、質問に対し瞬時に反応できるとはどういうことだろうと考えてみた。確か

に教授から投げ掛けられた設問を常日頃から考察してきた結果とみることも出来るが、私たちは

身の回りに起きている多くの事象を、好き嫌いなど直感的な感情や過去の経験などに縛られ捉え

ていることが多いと思う。



相手の質問に対し自身の直感的な感情を排し、その質問の全体像を再構築させるためにはある

程度の時間が必要になるのではないかと感じてしまうのもまた事実だった。



現代では瞬時に論理的な反応を示すことが「頭がいい」という流れにあるのかも知れない。ただ

友達と土手に座り雨上がりの虹を見ながら、「どうして虹はいろいろな光を映し出すんだろう」という

友達の問いに、「それは空気中の水滴がプリズムの役割をするため、光が分解されて見えるんだ」

という答えと、「君の目に涙がなければ魂に虹は見えないんだ」という答え。そのどちらも併せ持つ

ことこそが求められているのかも知れない。



ちなみに「目に涙がなければ魂に虹は見えない」は北米ミンカス族のことわざから引用しました。



☆☆☆☆



人間の左脳と右脳の働きを理解した私の祖先たちは、個々人の中で左右の脳のコミュニケーション

を活性化させるために、これら学びの物語の原形を編み出したのです。



彼らは左脳が話し言葉(ないし書き言葉)を処理する傾向にあり、右脳がイメージ(アルファベットに

もとづかないアメリカ先住民伝来の手話を含む)を処理する傾向にあることを理解していたので、学

びの物語には、話し言葉で語りながら、同時に心のなかで鮮明なイメージを生み出すような工夫を

凝らしました。



それによって右脳が刺激され、左右の脳のコミュニケーションが活性化になるのです。



「知恵の三つ編み」
ポーラ・アンダーウッド(イロコイ族)著より引用



☆☆☆☆



(K.K)



 






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