「知恵の三つ編み」
アメリカ教育省「模範教育プログラム」選定図書
ポーラ・アンダーウッド著 星川淳訳 徳間書店
(本書より)
前に紹介した「一万年の旅路」の著者が真の「学び」とは何かを問いかける。 「一万年の旅路」という口承史の何千世代に渡る継承者である彼女は、祖先 が体験した試練をまるで自分が経験したように頭に思い浮かべる。そして、 そこから何を学びとっていかなければならないのかを追体験してゆくのであ る。本書も主に著者の父から語られる祖先の物語を通して、如何に多くを 学んできたかを、父の手法を絡ませながら現代に紹介している。それは人 間の左脳と右脳の働きを理解していた彼女の祖先たちが、左右の脳の 連携を活性化させるために、本書で語られる物語の原形を編み出してい ったのである。また本書で語られる内容をユング心理学から接近して西欧 でベストセラーになったダコタ族・ロス博士の「我らみな同胞」三一書房も お読みいただけたらと思います。 (K.K)
「心に響く言葉」・北米ミンカス族のことわざ・1998.9.6を参照されたし
同じ著者による、10万年にも渡る一族の叡智の旅と未来の世界への想いを描いた 文献「一万年の旅路」や、アメリカ独立の際に大きな影響力を与えたイロコイ連邦の 民主制、並びにその生い立ちについて詳しく書かれた「小さな国の大いなる知恵」と いう文献も是非参照してくださればと思います。また星野道夫氏と親交があった リチャード・ネルソンの「内なる島 ワタリガラスの贈りもの」という文献は訳者が 翻訳されたものです。
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現在日本の教育改革は、欧米先進国の知のみならず、深い自然の知の 裏打ちを必要とする。本書は一万年以上にわたるアメリカ先住者の知恵 を語りつつ、それを主体的に学び取る方策をも示す貴重な書物である。 河合隼雄(国際日本文化研究センター所長・心理学者) (本書・帯文より)
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本書より引用
そのとき、私は理解しました。父と私が美しいと思う生き方は、確実に守られ てきたのです。父にしろ私にしろ、あれだけしっかりと頭に入っていれば、 物語に出てくる家を建てたり、一族を再現したりすることはじゅうぶん可能だ ったでしょう。私たちは文字どおり毎日のように、世代から世代へと受け継が れてきた古代の知恵を借り、それによって自分たちの現状をそれまで以上 にはっきりと理解していきました。「自分なりのやり方で」私は父に答えまし た。「私たちも一族を支えているのね。彼らが学んだものごとに耳を傾け、 それを私たち自身の思考に織り込んで、私たち自身のヴィジョンの火に かざし、最後に私たちの理解の煙で燻して、明日のために保存するんだ わ。」「私たちを通して、一族は最悪の冬以上のものを生きのびた。私たち を通して、一族は何世紀もの時を生きのびてきたのよ」。私は長いあいだ 無言のまま、将来のもっと成熟した自分に耳をすましていました。いつの 日か、人びとの学びを助けるために語るであろう、私自身の<祖母の声> に聞き入ったのです。最後に、父の言葉が沈黙を破りました。「理解が見え るよ」父は説明します。「以前は質問しかなかったところに・・・いまは学びが 見える」。そしてふたたび、父は待ちました。私の思いが少しずつ方向を 変え、耳を傾ける意志が生まれるまで。私が父のほうへ目を向けると、 父はもう一度詠唱のリズムをとりはじめました。あぐらをかいた膝を、ゆっ くり指で叩きながら・・・。
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論理と直感のバランス 本書より引用
今日多くの人びとが、魂でとらえられるものと通常の因果連鎖とのバランス、 いいかえれば直感と論理とのバランスをとろうとして苦労しています。そのどち らかを優先したり、大きなヴィジョンのために個人的責任をおろそかにしたり、 ただの現実主義に走ったりする傾向があるのです。父の説明によれば、イロ コイ流の考え方の本質は、これら二つのバランスをとって歩くことだといいま す。右、左、右、左・・・。バランスのとれた歩き方をするには、左右の足を バランスよく踏み出すことが必要ですが、それはバランスのとれた考え方 にも当てはまります。この伝統では、芸術と数学や論理を別々なものと見る かわり、芸術、数学、論理といったものを一つの全体ととらえます。左右の 目のように、両方そろって奥行きを与えてくれるものなのです。右と左、全体 性と因果律、直感と論理など、こうした二つの考え方、二つの見方は、いわ ば二点間の直線から三角形を立ち上げ、その両方を超えたより豊かなリア リティ像の形式を可能にしてくれます。父から学んだ<学びの道>と<強 い魂の道>は、直感と論理、全体性と因果律のバランスをとるものです。
魂の目で森を見、魂の耳でその木精を聴き、宇宙を貫く変化の流れを 理解することは、私たち一人ひとりの責任です。どんなに森が大きくても 気づきを失わないでいることは、一人ひとりの責任です。森を抜けていく 一本の道を選ぶこと、地上の目で道を見きわめ、地上の耳で木精を聴き とることは、一人ひとりの責任なのです。だれも他人にかわってそれを することはできません。魂の気づきは地上の気づきの代用にならない し、地上の気づきは魂の気づきの代用になりません。リアリティを知覚 し経験するこれら二通りの形を理解すると、コミュニケーションの全体性 を保つことがとくに重要になってきます。二つの知恵、二つの理解として の言葉とイメージが、二人三脚で歩きだすのです。この古来の学習プロ セスを英語であらわそうとした私の最初の試みが、「狼の代弁はだれが する」でした。「白い冬と黄金の夏」と「多くの輪・多くの道」はその続編 です。これらの物語が数限りない世代にわたって役立ってきたように、 読者のみなさんにも役立つことを祈ります。
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古代の学習システム
<一族>は、ものごとを説明するということを好みません。それよりも、追加の 情報を提供して、一人ひとりが自前の(つねに仮の)結論に達し、すばやく 必要な決定を下せるようしむけるのです。これは過去にうまく機能した慣習 とか伝統、あるいは前の世代への盲従といったものからくるのではありませ ん。これは私の祖先たちが、何百世代、いやおそらく何千世代にわたって、 人間には左脳と右脳がそなわっており、それぞれが異なった機能を果たす 傾向をもつということを理解してきたからなのです。私は父が示してくれた 学習システムを体験することによって、このことを理解するようになりました。 私が質問するたびに、父はかならず問い返してきたものです。「自分の中 に答えを見つけてごらん」父はそう促しました。「かならず見つかるから」。 人間の左脳と右脳の働きを理解した私の祖先たちは、個々人の中で左右 の脳のコミュニケーションを活性化させるために、これら学びの物語の原形 を編み出したのです。彼らは左脳が話し言葉(ないし書き言葉)を処理する 傾向にあり、右脳がイメージ(アルファベットにもとづかないアメリカ先住民 伝来の手話を含む)を処理する傾向にあることを理解していたので、学び の物語には、話し言葉で語りながら、同時に心のなかで鮮明なイメージを 生み出すような工夫を凝らしました。それによって右脳が刺激され、左右 の脳のコミュニケーションが活性化になるのです。
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本書 訳者あとがき より抜粋引用
その彼女が、本書にも触れられているような経緯で五代前に遡る先祖から膨大な 口承史を受け継ぎ、さらにそれを現代にふさわしい形でオープンにする役割を担わさ れた。家庭生活を“卒業”して本来の使命を果たせる境遇になったとき、まず最初に 英語で世に問うたのは、1983年初版の「狼の代弁はだれがするの」だった。それが 静かながら大きな反響を呼び、幅広い年齢層に受け入れられるすぐれた環境教育テ キストとして注目されたことから、前述した教育省推薦の「“過去はプロローグ”教育プ ログラム」が生まれた。そうした中で、教師用の副読本として「知恵の三つ編み---- 学びを促す人びとのための手引き」が著され、続編の「白い冬と黄金の夏」と「多くの 輪・多くの道」が加わった。サンタフェで行われたような同プログラムのトレーナー養成 ワークショップをはじめ、現在、全米の数多くの学校や企業で使われるこれらの4冊を、 著者の了解を得て一巻にまとめたものが本書である。
続いて、受け継いだ口承史の本体ともいうべき「一万年の旅路」を1993年に出版した ポーラは、今後もワークショップやトレーナー養成を手がけながら、残るいくつかの物語を 書き下ろす計画を温めている。その中には、<一族>の旅人が南米のマヤやインカ文明 を訪れた話や、大西洋を越えたヨーロッパ側との古代の絆などが語られているらしい。五 代前の女治療師がイロコイのふるさとを離れて西へ移り住んで以来、最後にはカリフォル ニアで父親と“二人だけの部族”になった語り部としては、語りか聞かせる相手を世界中 に広げることで、<一族>を新たな形で復活させる心づもりがあるのかもしれない。もとも と人一倍未来志向だったのに、なぜ突然のごとく一万年以上の遠い過去に魅せられるよ うになったのかと自問する私に、彼女はこう答えてくれた。昔からの語り部の役割は、一族 が大きな転機にさしかかったとき、これまでの来歴をすべて正確に語り直すことで自分た ちのアイデンティティを再確認し、未来に向けた正しい選択ができるようにすることなのだ、 と----。いま、地球人類が立っている大きな転機が、本書のような知恵の伝承を呼びもど そうとしているのだろうか。
ポーラの伝える物語はストーリーじたいも想像を絶するけれど、彼女の最大の関心はむし ろそこに込められた学びを汲み取ることであり、そのために物語をどう使うかに向けられて いる。本書におさめられた三つの短い口承から、彼女がワークショップなどでどれほど重層 的な学びを引き出すかは驚嘆に値する。彼女の受け継ぐすべての物語となれば、引き出 せる学びはほとんど無限に近いだろう。まだほんの縁を撫でた程度だが、西でも東でもな い先住民文化の途方もない深みを、私はポーラの伝承から垣間見ることができた。口承 文化あなどるべからず。いや、結局のところ口承文化こそ、遠い過去と未来を結ぶ人類の 文化継承の本流なのかもしれない。
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目次 はじめに
第T部 三つの物語 第1話 狼の代弁はだれがする 学びの物語から知恵を紡ぎ出す 学びの物語の本質について 中つ火 第2話 白い冬と黄金の夏 第3話 多くの輪・多くの道
第U部 知恵の三つ編み・・・・学びを促す人びとのための手引き 第U部について 二つの道を学ぶ・・・・著者について 由来について 論理と直感のバランス 古代の学習システム 六つの法則・・・・右脳向け 六つの法則・・・・左脳向け 教えるということ 学びとしてのゲーム(輪回し 種とその散らばり方 文字以外の物事を読む していることから学ぶ) アメリカ先住民作家の学校訪問 中つ火 正統性について モカシン・・・・たとえ話の意味 シンボル(輪 卵形 知恵の道 交差する道 二人だけの部族) 大いなる平和の樹 大いなる平和の樹・・・・連邦のシンボル 新しい目の知恵と子どもの権利 鷲たちの悲歌
訳者あとがき
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2012年3月25日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。 |
2012年6月22日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。 代表者を如何にして選ぶか(インディアン・イロコイ連邦のピースメーカーを感じながら)。 写真はFB友達の伊藤研人さんから紹介してもらったDVD「世界を癒す13人のおばあちゃん これからの7世代と、さらに続くこどもたちへ」から引用。 選挙が近づくと大声で「お願いします、あと一歩、あと一歩です」なんて聞くと、どこかの漫才でも ないがリハビリしているのかと言いたくなってしまう。 僕が描く理想的な代表の選び方は、水洗式である。チェ・ゲバラは虐げられている者への共感が 根底にあったが、維新だの改革だの叫んでいる人たちは、ただ単に自分の、民衆の頭の中を 真っ白にして古いものを一瞬にして洗い流したいだけだろう。 あれ、字が間違っていた、推薦式である。 住民が地域社会に対して行ってきたその人の活動なり言動を見て、この人だったらこの地域に 住む人、そして広く日本に住む人のために良い方向に導いてくれる、彼(彼女)に代表者になる 意志はなくともそんな人を推薦する。 そして各地(村単位)で推薦された人たちが集まって、町まり市なり県・国の代表者を推薦していく。 インディアンの社会においてどのようにして族長を選ぶかに関しては詳しくないが、ある部族は 女性だけの投票で族長(男性)を選ぶところがあり、推薦式なのだろう。 勿論、インディアンの部族という小さな集団での選び方が、そのまま日本にあてはまるかは疑問も 多いだろうが、一つの視点になるのではないだろうか。 話は飛ぶが、アメリカ合衆国には治外法権が適用されFBI(米連邦捜査局)さえ踏み込めない 準独立国・色恋連邦がある。 あ、また間違った。イロコイ連邦である。 今から1000年ほど前に結成されたこのイロコイ連邦の民主的な制度に通じていたフランクリン (独立宣言起草委員)は、イロコイ連邦組織を手本にオルバニー連合案(1754年)を作り、この 多くの要素が現在の合衆国憲法にも取り入れられている。 このイロコイ連邦を作ったとされるピースメーカーの物語を少し紹介したいが、彼の物語はロング フェローの叙事詩「ハイアワサの歌」でも有名であり、如何に代表者を選ぶかということも示唆され ていると思う。 ピースメーカーの物語、「ハイアワサの歌」はロングフェローの脚色が多すぎるため違う文献から 引用したい。 ☆☆☆☆ そこで、ピースメーカーは語りかけた。人間はだれでも<グッドマインド>をもっていて、それを使え ば人間どうしも、また地球上の生きとし生けるものとも平和に共存できるし、争いも暴力ではなく話し 合いで解決できる。 だから、血で血を洗う殺し合いはもうやめよう、と。 彼はまた、九つの氏族を定めて乱婚を避けること、そして相続は母系で行うことを教えた。 家や土地や財産は母から娘へ引き継がれ、子どもはすべて母親の氏族に属するのである。 各氏族は男性のリーダーとして族長を、女性のリーダーとして族母を選び出し、族長と族母には それぞれ補佐役として男女一人ずつの信仰の守り手(Faith Keeper)がつく。 族長は族母によって選ばれ、族長にふさわしくない言動があれば、族母はそれを辞めさせること もできる。 氏族メンバーの総意で選ばれる族母は、つねに人びとの意思を汲み上げる大きな責任を負う。 族母(クランマザー)の由来は次のように伝えられている。 ピースメーカーがオンタリオ湖の南岸に着いて平和行脚をはじめたばかりのころ、セネカ族の 土地で峠の宿を営む女将に出会った。 そこは東西を結ぶ街道の要所で、彼女は道ゆく戦士たちを心づくしの食事でもてなすのが 自慢だった。 しかし乱世のこと、それは争いの火に油を注ぐ役目も果たし、また彼女自身、ときどき食事に 毒を盛っては人殺しに手を染めることがあったという。 そこへ通りかかったピースメーカーの話を聞くと、女将はたちまち平和の道にめざめ、すっか り改心して最初の支持者となる。 ピースメーカーは彼女を「生まれ出ずる国の母」を意味するジゴンサセと名づけて讃えた。 初代クランマザーの誕生である。 「小さな国の大いなる知恵」ポーラ・アンダーウッド著より引用。 ☆☆☆☆ (K.K) |