「チェスの第5歩 Dr.タラシュの中盤講座」
中級者のレベルアップ(1)」
 

アンパサンチェス研究会 編・訳






編・訳者の辻本二朗氏はこのシリーズとして本書を含めて4冊のチェス本を出版して

いる。本書「チェスの第5歩」は中級者向けに書かれたタラシュの翻訳本で、様々な局

面における戦術を幅広く集めた好著であり、実戦的な戦いの指南書です。



尚、編・訳者の辻本二朗氏は日本チェス協会(JCA)所属の「大阪アンパサンチェス

クラブ」と、JCA確認団体「レディース大阪チェスクラブ」を主催しており、また日本で

初めてのチェス・カフェ(「チェスカフェアンパサン」)を経営しています。

(K.K)



チェスカフェ アンパサン(アンパサンチェス

研究会)のホームページはこちらです。





本書 はじめに より引用

DR.Tarrasch


序盤においてもっとも影響力を持つのは、先を見通した総合的な戦略である。それに対して、はっき

りした境界線はないものの、その後に続く中盤は、タクティクスを駆使した工夫と攻撃、コンビネー

ション、そして直ちに目に見えなくても相手がミスをすればそこに付け入ること、などが表舞台に現

える時間帯だ。中盤は最もチェスらしく、チェスの中で最も美しい部分でもある。そこでは生き生きと

した想像力が最大限かつ創造的に働いて、素晴らしいコンビネーションを生み出すことができる。

さらに、十分プランが練られたゲームでは、それは全く自然の成り行きのように現れる。それは種々

いくつかのタイプに集約できる場合が多いので、あなたは想像力を鍛錬することもできるし、絶えず

繰り返さし現れるこれらのテーマを研究の対象とすることでその組み立て方を学ぶこともできる。ま

さにそれを、以下のページでは実行していきたいと思うのだ。これを習得するにあたって最も大事な

ことは、学んだことを再現し何度も何度も研究しなおすことだ。 - それがあなたの本性の一部になる

に至るまで。そうすれば最も輝かしいクィーンサクリファイスさえ全く自然にあなたのものとなるだろう。

複雑な迷路の中でいつでも道標を、熟知した型を見つけることができるだろうから。


 
 


本書 編・訳者あとがき より引用

アンパサンチェス研究会 辻本二郎



本書はSiegbert Tarrasch(1862-1935)著、THE GAME OF CHESS(G.E.Smith and T.G.Boneによる

英訳版 1935。オリジナルのドイツ語版は1931)の「第3章 ミドルゲーム」の邦訳です。



Tarraschは世界チャンピオンにはなれませんでしたが、当時の最強プレーヤーの1人で、医者でも

あったため「ドクター タラシュ」とも呼ばれます。



原文の各テーマには、番号はついていません。ひたすら中盤の各タクティクスの紹介と解説に終始

しています。本書では番号をつけ、さらに第1部と第2部に分けています。目次からもお分かりのよう

に、前半は種々のタクティクス、後半はポジション別攻撃法、と内容が区別できるからです。



採り上げられているのは、最初から最後まで、力強い指し手ののオン パレード。読者の読みやす

さなど念頭にないかのような、無骨と言ってもいいような、しかし生真面目で中身の濃い著述です。

特に第2部のポジション別の攻撃法は、十分検討した上で覚えておけば有益ではないでしょうか。



ただ、1例に1図しか織り込まれていず、変化手順は( )内に描かれているだけなので、このまま読

み通すのはとても困難です。(次ページに原書の見本)。



本書では、大きな変化手順はほとんど、時には小さな枝分かれを区切って図を入れ、設問形式に

しました。したがってほとんどの図は原書にはなく、左ページの設問もすべて訳者の挿入したもの

です。ただし右ページの「解答・解説」にあたる部分は原文の訳そのまま(番号は除く)なので、右

ページだけを読んでいかれれば原書を読むのとほぼ同じことになります(そのため、設問の答が

カッコ内に閉じ込められている場合があります)。



ある程度タクティクスを身につけ、2-3手先まで見通せるようになった中級レベルの方にお読みいた

だければ、さらに力強い指し手を習得していただけるのではないかと思います。

(以下略)



 


本書 結び より引用

DR.Tarrasch



チェスというゲームは戦争を象徴している。軍を出動可能な状態にし戦略的に前進させること、そし

てそれに続く初期の小競り合い、これらに序盤が対応している。そして中盤は、戦いそのものすなわ

ち決戦に似ている。戦術及び戦略の両面に関して、典型的な作戦の工夫や攻撃方法を研究すると

いう形で、読者はここまで生の資料に十分慣れ親しんできた。それは中盤を指揮するという目的の

ためだ。



この多数の資料を、自らの本性になるまで注意深く研究したプレーヤーは、どんな状況にも対処する

ことができるようになっているはずである。中盤において最も重要な要素はタクティクスだ。我々は何

よりも、多かれ少なかれ隠されているものを見抜かなければならない。ピースの協働作戦が可能に

なったときはいつでもその機会を利用しなければならない。ここに見せかけだけのカードがあり、そこ

には全く守られていない相手のピースがあり、あるいはダブルアタックなどができるようになっている。



繰り返し繰り返し戦術的な工夫の機会は生じていて、これまでのページでそれらが詳しく論じられてき

た。こうしたチャンスを作り出すためには、先行する犠牲が必要な場合も多い。相手サイドのミスは、

その機会を逃さず察知しなければならず、また我々自身が犯す可能性もあるものとして認知しなけれ

ばならない。



また、中盤の戦略的な作戦は一般に序盤から発しているものだ。序盤において一方のプレーヤーが

わずかに優位を得て、これが中盤においてさらに広がることはよくある。ポーンのフォーメーションが

攻撃すべき方向を示すこともよくある。序盤において一方がキングサイドに多数派ポーンを持ったと

しよう。この時これらのポーンは攻撃に向かって前進するだろう。



もし白がe5とf5にポーンを持てば、その結果はe6にパスポーンを得るか、あるいはf6において黒陣へ

のくさびを打ち込むことになるか、またあるいは黒のキャスリングポジションを破壊するかのいずれか

になる。もし多数派ポーンがクイーンサイドにあれば、その時はポーンが前進することで結果として

パスポーンを生み出す。キングサイドへの攻撃の方がより強い攻撃力を持つことは確かだ。



Steinitzとは違って、この見方を維持しないわけにはいかない。キングへの攻撃はメイトという結果を

呼ぶが、それに対してクイーンサイドの攻撃は最も望ましい状況でも、ただパスポーンを、したがって

おそらくは新しいクイーンを生み出すだけだ。しかしながら、我々はどこであれ望むところを攻撃でき

ると考えることはできない。



チェスにおいて、正しくプレーしようとするのなら、我々は決して望むことをできると考えてはならない

のだ。そうではなく我々は、そうするように仕向けられていること、ポジションを要求していることだけを

しらなければならない。



ポジショナルプレー、すなわち、ポジションに従ってプレーすることが唯一正しい方法であり、そこから

コンビネーション[ピースの協働作戦]も自ずから結果として生まれてくるのだ。我々は、自らの方が強

くかつ相手の方が弱いところを攻撃しなければならない。我々は自らの強い地点、相手陣の弱い地点

を占拠するように努めるべきだ。また同時に相手側にそのような占拠を許さないように努めるべきだ。



すべての局面はプロブレム[正しい手を見つける課題]と見做されなければならない。そこでは正しい

手を見つける問いがあり、ほとんど常に解答はただ1つだけしかなく、そしてそれはポジションによって

要請されているものだ。特に一方がすでにはっきり優勢になっているとき、自由に選べるいくつかの

同じ程度にいい手があるように思えることがよくある。しかしながらより詳細に検討してみると、たいて

い1つの手が最も厳しく、まさに最強で、それゆえ唯一の正しい手だということが明らかになる。



もし一方の優位がそれほどはっきりしていない場合は、いくつかの手を考察すると、1つの手が最強

であるだけでなく、他の手は実は不利をもたらすものだということになる。チェスにおいては最善の、

唯一正しい手を、一見同じ価値に見えるいくつかの中から選び出すのが一番難しいことだ。



もし中盤において戦力的に優位に立っていれば、勝ちという結論をもたらすために、その優位を有効

に生かすよう努めることが求めらる。すなわち、ピースを交換してゲームを単純化し、エンドゲームに

入っていくように試みるべきだ。そうすれば戦力の優位がさらに効果を発揮するようになる。しかし中盤

で獲得した戦力の優位が、攻撃に対する新たな促進剤になることもしばしばある。ただしそのようなとき

には、注意深くすべての危険を避けなければならない。というのは、戦力の優位でもって---他の事情が

同じなら---ゲームはすでに決しているのであって、何か疑わしいコンビネーションでわざわざ勝利を危う

いものにするのはばかげているからだ。



もしいくらか劣勢のポジションで序盤を過ぎた場合には、損傷を回復するよう努力しなければならない。

たとえば、もし黒がセンターを放棄しなければならなかったとして、白のe4ポーンに対してd6にポーンを

持ち、あるいは白のd4ポーンに対してe6にポーンを持つとすれば、その時は最初の例ではd5、2つ目の

例ではe5として相手のセンターポーンの効力をなくすことを試みるのだ。出遅れたポーンは前進させる

努力をする必要がある。中でも展開の面で遅れているのなら、相手に追いつくよう努めなければならな

い。加えて、相手が十分な時間をこちらに許してくれればすぐに、ポジションの良くないピースをよりいい

ポジションに移すよう図ることが求められる。たとえばボードの端のナイトなどだ。



それほどよく起きることではないが、もし序盤が過ぎても均衡が保たれているときは、次のことをはっきり

意識しなければならない。そのようなポジションから勝つのは非常に難しいことを、しかし負けるのは非常

に容易であることを。そのような場合、常にも増して注意深く、またどんな弱点も作らないようにしなければ

ならない。特にポーンを動かすことがそれを作り出すと言ってもよい。



ところで序盤とは正反対なのだが、中盤では一般に、特にエンドゲームが近くなってくるとさらに、キャス

リングポジションからキングを抜け出させるための道を開けることが必要になる。その時、相手が白枡に

---たとえばb7に---ビショップを持っているならh3とすべきだし、相手が黒枡に---たとえばd6に---ビ

ショップを持っているならg3とすべきだ(もちろん他のすべてのことも考慮に入れながら)。



そしてポジションが均衡していても、まだまだドローからはるかに遠い。均衡状態の局面から両者がただ

穏やかにプレーしていても、より強いプレーヤーの方が優位を得ることが多い。もちろんこれは相手の

まずいプレーによってのみ起こることだ。ただ、ミスというものは非常に犯しやすいものでもある。たとえ

それが重大なミスでなくても、相手がマスターであれば、ごくわずかな弱い手でも形勢を傾けるのに十分

だということになるだろう。











Siegbert Tarrasch (March 5, 1862 – February 17, 1934)

 


タラシュの名局



Aron Nimzowitsch vs Siegbert Tarrasch
"Tarrasch the Thought" (game of the day Sep-01-05)
St Petersburg (1914) · Queen's Gambit Declined: Tarrasch Defense. Pseudo-Tarrasch (D30) · 0-1



この試合は、チェスの歴史上最も偉大な125試合を詳しく解説した著名な文献
「The Mammoth Book of the World's Greatest Chess Games」に掲載されている。



「おそらくタラッシュの最もよく知られたゲームであろう。さらにダブル・ビショップ・

サクリファイスの好例として。」


「完全チェス読本2 偉大なる天才たちの名局 ラスカーからカスパロフまで」から引用



nimzowitsch_tarrasch_1914.pgn へのリンク





Siegbert Tarrasch vs David Janowski
"Tarrasch Bulba" (game of the day Feb-10-13)
Budapest (1896) · Vienna Game: Paulsen Variation (C25) · 1-0




tarrasch_janowski_1896.pgn へのリンク





Siegbert Tarrasch vs Edmund Thorold
"Rook Before you Reap" (game of the day Dec-05-06)
Manchester Tournament 1890 · French Defense: Tarrasch Variation. Chistyakov Defense (C07) · 1-0



「いちばん学べる名局集」アーヴィング・チェルネフ著 水野優訳では、この試合の詳しい

解説がされています。「終盤で攻撃的なルーク・・・タラッシュは、本局をまるで友人に終盤の

勝ち方をレッスンしているかのように指した。彼はよくこう言った。『ルークとポーンの終盤で

は、ルークが攻撃的でなければならない。敵のポーンを攻撃するか、味方のポーンの一つが

昇格する手助けを積極的にすべきだ』と。本局では、攻撃的なルークが相手に絶え間なく圧

力をかけたおかげで、タラッシュのキングとパスポーンが整然と前進できる。両者が1マス進

むたびに、相手のピースたちが後ろの縁までどんどん追い払われる。パスポーンの容赦の

ない前進にほとんど抵抗できないのだ。この終盤戦を処理するタラッシュの平易で模範的な

テクニックは、私にこう言わしめるほど感動的だ。『今まで指されたゲームの中で、いちばん

学べるルーク+ポーン終盤』。」・・・本書より抜粋引用




thorold_tarrasch_1890.pgn へのリンク





Siegbert Tarrasch vs Theodor von Scheve
Leipzig 1894 · Queen's Gambit Declined: Harrwitz Attack (D37) · 1-0



「いちばん学べる名局集」アーヴィング・チェルネフ著 水野優訳では、この試合の詳しい

解説がされています。「キング側への攻撃・・・『一つのプランは数手のためのものであり、全

局を通してのものではない』(ルーベン・ファイン) それはそうかもしれないが、本局を例に

取ると、タラッシュは8手目という早い段階からほぼメイトに至るまでの青写真を描いていた!

彼のポーンへの攻撃が強制した交換によってgファイルがこじ開けられる。gファイルの奥に

は、フォン・シェーフェのキングがいる。タラッシュは、そこにルークを重ねる。そして、クイーン

を回して戦力を集中させる。このメジャーピースで障壁を突破する方法は、それ自体がキング

への攻撃技法の実例となっている。」・・・本書より抜粋引用




von_scheve_tarrasch_1894.pgn へのリンク





Siegbert Tarrasch vs Vogel
Nuremberg 1910 · Spanish Game: Berlin Defense. Hedgehog Variation (C66) · 1-0



「いちばん学べる名局集」アーヴィング・チェルネフ著 水野優訳では、この試合の詳しい

解説がされています。「駆けるナイト・・・本局では、ほぼ一つのピースの奮闘によって勝利が

決まる! 全37手のうち、タラッシュのクイーン側ナイトが13手を占め、黒の両ルークを釘付

けにし、あちこちでポーンを取り、仕上げにパスポーンがクイーンになる道筋を確保する。

技術的な観点からは、わずかな優位を大きく育てるテクニックの貴重な実例だ。ナイトが弱点

を誘発してd6(ナイトが三度訪れるマス!)を完全に物にする方法は、とりわけ興味深い。」

・・・本書より抜粋引用




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Siegbert Tarrasch vs Jackson Whipps Showalter
Vienna (1898) · Italian Game: Hungarian Defense (C50) · 1-0



「いちばん学べる名局集」アーヴィング・チェルネフ著 水野優訳では、この試合の詳しい

解説がされています。「計画的絞殺・・・『これはコンビネーションのないゲームだ。しかし、控

えめな序盤の後、黒陣が完全に麻痺するまで白が徐々に締め付けていく。黒にはこれといっ

た落ち度もないにもかかわらず。これは最も高度な戦略的勝利である』タラッシュはこう述べ、

本局を生涯の励みにした。この陣形重視の名局では、タラッシュがショウウォーターのピース

をまともに展開せず、反撃の機会を封じ、一手ごとに追いつめていき、ついには縁で押しつ

ぶす。タラッシュの主張とは違い、本局にもコンビネーションはあるが、注釈の中に隠れてい

る。ショウウォーターが別の手を指していたら現れたかもしれない。」・・・本書より抜粋引用




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Siegbert Tarrasch vs Savielly Tartakower
Berlin (1920), Berlin GER, rd 3, Dec-06
Queen's Gambit Declined: Albin Countergambit. Tartakower Defense (D08) · 1-0




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Siegbert Tarrasch vs Richard Reti
"Dark Square Symphony" (game of the day Feb-19-2015)
Vienna (1922), Vienna AUT, rd 10, Nov-25
Caro-Kann Defense: Two Knights Attack (B10) · 1-0




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タラシュが負けた名局

Harry Nelson Pillsbury vs Siegbert Tarrasch
Hastings (1895) · Queen's Gambit Declined: Orthodox Defense. Pillsbury Variation (D63) · 1-0



タラッシュが負けた名局「これまで知られていなかったピルスベリーを名手のひとりとして

認知させることになるすさまじい戦いぶり。」


「完全チェス読本2 偉大なる天才たちの名局 ラスカーからカスパロフまで」から引用



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Berthold Englisch vs Siegbert Tarrasch
"Englisch Patient" (game of the day May-25-13)
Hamburg (1885) · King's Indian Defense: Four Pawns Attack (E76) · 1-0




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タラシュによる281の名局集

Tarrasch's Dreihundert Schachpartien

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タラシュが解説した局

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タラッシュの全棋譜


 


以下、「決定力を鍛える チェス世界王者に学ぶ生き方の秘訣」

ガルリ・カスパロフ著 近藤隆文訳 NHK出版 より引用



意見を異にする賢者たちのライバル関係

20世紀初頭、チェス競技における史上有数の激しい敵対関係がエマーヌエル・ラスカーとジークベルト・

タラッシュのあいだで見られた。しかも、この対立はチェス盤上にとどまらなかった。ドイツの二大名手は

チェスの本質に関して、というより人生に関して根本的に異なる考えをいだいていたのだ。出典はあやしい

ながら有名な逸話によれば、1908年にデュッセルドルフでおこなわれた世界チャンピオン戦第1局の開始

前に和解が試みられたらしい。しかしタラッシュは入場するとラスカーに歩み寄って言った。「ラスカー君、

私からきみに言いたい言葉は三つだけだ。『チェック、そして、メイト!』」。タラッシュとその支援者たちに

はあいにくなことに、試合開始後に彼がこの台詞を使う機会はあまりなかった。ラスカーが8勝3敗で楽勝

したのである。(中略)



ジークベルト・タラッシュは何より古典的な著書とおどけた発言で知られるが、よき医師であった彼は最初

のふたりの世界チャンピオン、すなわちシュタイニッツとラスカーにも匹敵する棋士であり、両者の好敵手

であった。チェスの進化とその考えにおける重要性で互角だといっても差し支えない。タラッシュの著書と

記事が、ある世代の棋士たちにこのゲームを伝授したのであり、当時、彼の独創的な指導法は現在より

も高く評価されていた。



やはり教義を詳述したシュタイニッツによく似て、タラッシュは盤上の混乱に秩序をもたらそうとした。著作

のなかで駒の指し方について厳格な指針を細かく設定し、そのルールに背いた者がいるとすかさずペンで

批判した。ある対局の注釈として彼はこう書いている。『ゲームの精神を理解していないことより、大悪手を

したときのほうが言い訳は見つけやすい』。英国の名人J・H・ブラックバーンに対するこの非難が記された

のは、なんと第8手という早い段階だった。その数手後、みずから悪手を指すまえにタラッシュはこうコメント

する。『このあとの弱い手筋は、ブラックバーンの冴えない指し手に混乱したからとしか説明のしようがない』



これほど独創的な精神の持ち主が革新者の心を兼ね備えていたのは、ちょっとしたパラドックスである。

タラッシュはまばゆい輝きを放つプレーで、開業医の仕事を継続しながら約20年のあいだ世界で3本か4本

の指にはいる一流棋士でありつづけたのだ。これほど長く頂点付近にとどまるのは、適応能力ななければ

不可能だっただろう。








タラッシュについて

「剃刀(かみそり)のように鋭く、彼はつねに自己のルールを守りとおした。みずからの科学的とされる手法

に徹しながらも、そのプレーはしばしば機知と輝きに彩られていた」・・・ボビー・フィッシャー




「タラッシュは知識を教え、ラスカーは知恵を教える」・・・フレッド・ラインフェルド



「チェスは愛のように、音楽のように、人を幸せにする力をもっている」・・・タラッシュ




 

  19世紀(16~17世紀も含む)に指されたチェスの名局集



Xadrez em Atibaia - Fotos Históricas

前列右から2番目がタラシュ、その横がカパブランカ、後列左端がエイベ、そして当時世界トップクラスの棋士たち。







麗しき女性チェス棋士の肖像

チェス盤に産みだされた芸術

毒舌風チェス(Chess)上達法

神を待ちのぞむ(トップページ)

チェス(CHESS)

天空の果実