「アメリカ先住民女性」

大地に生きる女たち

 ダイアナ・スティア著 鈴木清史・渋谷瑞恵訳 明石書店より







本書にちりばめられた先住民女性への賛歌の美しさは勿論のこと、古き時代の

インディアンの姿を記録したカーティスの写真などを通して、先住民女性の美しさ

や逞しさが強く心に伝わってくる文献である。また西洋的父系社会との対比をする

ことにより、彼ら先住民族の豊穣な精神世界が何故生まれたかをも考察し、私た

ちの未来へと向かうあるべき道を示している。

(K.K)


 








本書(ダイアナ・スティア)より引用


執筆を進めながら、わたしは先住民女性についての情報を集め、さらにおおくの質問

を先住民の友人に投げかけました。かれらは協力を惜しみませんでした。その作業の

なかでわたしがいたく驚いたのは、西洋的な父系社会と、アメリカ大陸で長年存在して

きた母系社会との大きな違いでした。先住民の人びとはお互いを、そして大地やすべて

の生き物を愛し慈しみます。それは、かれらを征服したヨーロッパ的な大量消費社会の

価値観とは対局にあるものでした。先住民社会のあいだで、「首長」は金持ちとはかぎ

らず、むしろ部族の人びとに尽くし責任を持つ人なのです。もしかすると、長い歴史と

高度に洗練された文化を持つ日本に住む読者の皆さんは、調和のとれた関係を至上

とするアメリカ先住民の人びとに何らかの類似性をみいだすことになるかもしれませ

ん。アメリカで本書が出版されてから2年が経ちました。おおくの読者から、女性が

中心的な役割を果たし、自然と共生してきた先住民文化に感銘したという声が届いて

います。危険に満ち、人間の制御が及ばないように思われる現代のアメリカ社会に

暮らしているせいか、相互に慈しみ、自分が誰かのために存在し社会に貢献でき、

子どもたちが愛される、そして何ごとも理由なく破壊されることのない社会について

知りたがっている人びとがおおくいたのかもしれません。


 
 


本書(ダイアナ・スティア)より引用


北アメリカの先住民は固有の文化をはぐくみ、自然とうまく共生してきた。その理由を

知ろうとするなら、先住民女性の役割と、それに向けられてきた深い敬意の念を理解す

ることが必要である。女性は、部族の生命を生み育てる人と考えられ、きわめて重要な

立場にある。女性は男性とは異なる役割を果たしてきたが、それで劣っているとはみな

されていない。ほとんどの部族においても賢女たちは、男性と同じように尊敬されてき

た。男性中心の父系社会では、階層や権威への従順さが強調され、富と権力は極端

に偏って分布している。しかし、女性が支配的な母系社会はそれぞれが生活に参加し、

社会の全員が必要なことに眼を向ける。女性の主要な役割は育児である。男性は外敵

を防ぎ、食を満たし、育児に従事する女性を支えることで、存在を示す。平等主義を重ん

じる体制では、性差や年齢とは無関係に、誰もが部族のなかでそれなりにふさわしい

場を持っているのである。母系的な社会の生活は、白人男性中心である今日のアメリ

カ合衆国の文化とは極端に異なる。この点を最初に把握することは難しい。すべての

生活を守り、慈しみそして尊重することに基づいた文化では、すべての人びとに得るも

のがある。ほとんどの場合、女性は育児や家族の世話に専念することで、部族の福利

に貢献してきた。しかしながら、子育てがおわると、女性の役割はもっと広がり、政治、

精神世界にまで入りこむ。かの女たちは治療師(medicine person)や聖職者となった。

男性は、狩猟や、いざというときの争いをとおして部族に尽くした。部族の生活では、

子どもは男女を問わずに、たくましく、かつ自分のことを考えるように育てられた。しかし

一方では、他者を助け、世話をすること、そして極端な場合には、部族の福利のために

自己犠牲を払うことの重要性も教えられた。さらに、部族で生活を送っている人びとは、

万一自分たちが何らかの難問や危険に身をおいたなら、ほかの人が世話をしてくれる

ことを知っていた。親切にもてなすことは、世界中の先住民族のなかでも類を見ない

美徳である。飢えた人を追い返すことはない。平原先住民は、自力で食べ物を得ること

のできない寡婦や老人に狩りの獲物を分与して、勇敢さを示し、誇りを得た。今日の

西洋的な競争的個人主義の価値観とは異なり、強靭で才能のある先住民は弱者を

排除するのではなく、世話をすることで優越した能力を示した。首長に求められる条件

のひとつは、自分のバンド(訳者注:小集団)の誰ひとりとして飢えさせないことであった。

必要ならば、かれ自身がバンドの人びとに食べ物を提供した。かれが力ではなく、模範

を示して主導したのである。イロコイのあいだでは、首長(通常男であるが)を選ぶのは

女性で、その人物が取るに足りないときにはやめさせることもできた。他人のために

犠牲となる美徳は、西洋人の眼にはともすれば「女々しい(female)」とも映るが、いま

なお先住民のあいだで息づいている。そのために、「部族のために働いた」といわれ

た人物には、大いなる敬意が払われるのである。


 


本書(ダイアナ・スティア)より引用


部族の創世神話は、先住民族が部族の中心的役割を演じ、かの女たちに敬意が

払われていることを物語っている。そこでは、最初に形作られたのが女性で、男性

は女性から生まれたことになっていた。これはキリスト教のアダムとイヴの創世神話

とはまったく逆である。アダムが先に作られ、イヴは罪深く恐ろしい存在で、リンゴを

めぐり男を欺くのである。それに対して、先住民族の世界では女性は賢く、力強くそし

て善良であるとみられている。ケレス(Keres)族の祭式者が唱え始めた。「かの女は

万物の母である。豊穣のときにも、財産においても、そしてわれわれを再びその胸に

連れ戻すときにおいても」。   ラコタの長老が述べたように、「男らしさを示すには、

女性に尽くすのはよいことである。なぜならば、人生の始まりと終わりにわれわれは

その手のなかに戻るからだ」。多くの創世神話において、グレイト・スピリット(Great

Spirit=偉大なる精霊)の力によって、生命と大地を創り出しているのは男神ではなく、

女性の力あるいは女神であることが非常に多い。グレイト・スピリットは、グレイト・

ミステリとも呼ばれるが、宇宙を生み出した力であり、それはすべての力を越えた

呪術である。


 


目次

日本語版への序文

まえがき


部族の母たち

女性・・・・部族の中心的な存在

先住民女性に共通するもの

創世神話における女性の役割

白人の進出とその影響

白人歴史家の役割

移住政策

いまなお生きている


女性の力

精神的な強さ

癒しの力

サイクルと力と

サンダンス(太陽の踊り)

通過儀礼

新しい時代の到来

長老の力

政治力・・・・過去

政治力・・・・現在

先住民女性とフェミニズム


愛すべき母なる大地

土を慈しむ人

農耕の始まり

土を耕す

健康と癒し

豊かな生活

細菌戦とヨーロッパの侵略

大地の恵み

神聖な食べ物としてのトウモロコシ


いまに生きる芸術とわざ

住まい

衣服

部族を越えて

焼き物

かご作り

クイルとビーズの工芸

ナヴァホの織物

歌と物語


謝辞

訳者あとがき





2013年4月3日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。





「男は女の力を恐れている」



(写真は『アメリカ先住民女性 大地に生きる女たち』から引用しました。)



中東やインドで起きている女性の悲劇を見るにつけ、私はそれを感じてならない。



恐らく太古の時代では多くが母系社会(母方の血筋によって家族や血縁集団を組織する社会制度)で

あり、調和ある共同体をつくるために母系社会は最も基礎となるものだった。



縄文土器に見られる女性像などから、儀式を執り行ったのは主に女性だったのではないかとの説が

あるが、沖縄・奄美のユタ(殆ど女性)を除いて、世界各地のシャーマンは圧倒的に男性が多い。これ

はもともと女性は生まれながらに偉大な神秘が宿っていることを男性自身が認識しており、治癒など

の儀式や部族の指導者(女性の意見だけで決める部族もある)は男性に任せるというのが自然の流

れになってきたのかも知れない。



母系社会の中では性犯罪が起きることは考えられないことであった。例えばアメリカ先住民と白人が

憎み戦っていた時代の証言「インディアンに囚われた白人女性の物語」の中でも、白人男性の捕虜と

は異なり、女性捕虜が如何に大切に扱われてきたかを読むとることができる。



このアメリカ先住民の社会では、女性が男性の荷物を家の外に置くだけで離婚は成立し、その逆は

なかった。



ただ現代のアメリカ先住民社会は、子供を親から無理やり引き離し、言葉・生活習慣・宗教などの

同化政策がなされた影響で、アルコール中毒、自殺、家庭崩壊、貧困が深刻な問題になっているが、

虐待や育児放棄の被害にあった子供たちを母系の集団の中で世話するため、現在でも孤児は存在

しない。



母系社会がいつから父系社会に転換したのか、、定住とそれによる近隣との闘争という説もあるが、

私の中ではまだ答えは見つけられないでいる。しかし肉体的な力による服従が次第に母系社会を

崩壊させ、それが暗黙のうちに様々な宗教に伝統として紛れ込んだのは事実かも知れない。



日本では菅原道真などに象徴される「怨霊」や「祟り」を鎮めるために、迫害者に近い人が神社などを

つくり、祭り上げることで鎮めてきたが、同じように卑弥呼の時代は既に女性の力の封印が始まった

時期だと思う。また中世ヨーロッパにおける「魔女狩り」も、宗教が関わりを持つ以前から民衆の間で

始まった説があるが、女性の力を封印させる側面もあったのだろう。



「男は女の力を恐れている」



無意識の次元にまで下ったこの感情を、あるべき姿へと開放させ、母系社会の意味を改めて問う時代

だと思う。



「アメリカ先住民」に限らず、「聖母マリア」「観音菩薩」の存在は、暗にその意味を私たちに教えている

ような気がしてならない。



☆☆☆☆



「女性が死にたえるまで、部族が征服されることはない。」

(チェロキの言い伝え)



「先住民族女性と白人の女性開放論者のちがいは、白人フェミニスト

たちは権利を主張し、先住民女性は負うべき責任について主張し

ているところだ。このふたつは大きく異なる。わたしたちの責務とは

この世界にあるわたしたちの土地を守ることだ。」

ルネ・セノグルス(Renee Senogles)
レッド・レイク・チペワ(Red Lake Chippewa)



「女は永遠の存在である。男は女から生まれ、そして女へと帰っていく。」

オジブワ族(Ojibwa)の言い伝え



「この星は、われわれがずっと生活してきた家である。

女性はその骨で大地を支えてきた。」

リンダ・ホーガン(Linda Hogan) チカソー(Chichasaw)族 詩人



「女性を愛し、大地は女性なのだと教えられ育ってきた男たちは、大地と

女性を同じものだと考えている。それこそ本当の男なのだ。生命を産む

のは女性である。女性が昔から感じとっていた眼にみえない大きな力と

の関係を男たちが理解し始めるなら、世の中はよりよい方向に変化し

始めるだろう。」

ロレイン・キャノ(Lorraine Canoe) モホークの指導者



☆☆☆☆




 







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