「ラブ・ストーリー」
星野道夫 写真・文 PHP研究所より引用
作品の中に北極熊やグリズリーなどが子どもとじゃれている姿が多く掲載され ているが、今この瞬間に遥かアラスカではこのような光景が満ち溢れている のだろう。文明社会にいる私たちが生きているこの同じ時間の中で彼らも生 きている。大自然の中で慈しみであり、戦いでもある一瞬一瞬という時を今 彼らは生きている。この文献はそのことを私たちにふと思い出させてくれる。 (K.K)
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(本書より引用)
「僕たちが生きてゆくための環境には、人間をとりまく生物の多様性が必要 なのだろう。オオカミの徘徊する世界がどこかに存在すると意識できること。 それは想像力という見えない豊かさをもたらし、僕たちが誰なのか、今どこに いるのかを教え続けてくれるような気がするのだ。」
遠い昔に会った誰かが、自分を懐かしがっていてくれる。 それは何と幸福なことだろう。
しぶきを上げ、海面から宙に舞うクジラが自然ならば、そのクジラに銛をうつ エスキモーの人々の暮らしもまた自然なのだ。自然とは人間の暮らしの外に あるのではなく、人間の営みさえ含めてのものだと思う。美しいのも、残酷な のも、そして小さなことから大きく傷ついていくのも自然なのだ。自然は強く て脆い。人は、なぜ自然に目を向けるのだろう。アラスカの原野を歩く一頭 のグリズリーから、マイナス五〇度の寒気の中でさえずる一羽のシジュウカ ラから、どうして僕たちは目を離せないのだろうか。それはきっと、そのクマ や小鳥を見つめながら、無意識のうちに、彼らの生命を通して自分の生命 を見ているからなのかもしれない。自然に対する興味の行きつく果ては、 自分自身の生命、生きていることの不思議さに他ならないからだ。僕たち が生きてゆくための環境には、人間をとりまく生物の多様性が大切なのだ ろう。オオカミの徘徊する世界がどこかに存在すると意識できること・・・・・ それは想像力という見えない豊かさをもたらし、僕たちが誰なのか、今どこ にいるのかを教え続けてくれるような気がした。
星野氏の著作「イニュニック(生命)」、「Alaska 風のような物語」、「旅をする木」、「長い旅の途上」 「星野道夫の仕事 第1巻 カリブーの旅」、「星野道夫の仕事 第2巻 北極圏の生命」、 「星野道夫の仕事 第3巻 生きものたちの宇宙」、「星野道夫の仕事 第4巻 ワタリガラスの神話」 また同じく極北の大地とそこに生きる先住民族を描いたリチャード・ネルソンの 「内なる島 ワタリガラスの贈りもの」も参照してください。
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